アートを通して地域の人々のつながりを

コミュニティアーティスト 富田陽子(とみた・ようこ)さん

 

 

公共施設の壁に描かれた絵、街中で見かけるバナー、これらのアート作品を地域ぐるみで作り上げる。その活動をリードするのがコミュニティアーティスト富田陽子さんの仕事だ。

 

  

ムーンフェスティバルで活躍する自作のランタンを手にする富田陽子さん(撮影 平野香利)

  

地域のアートプロジェクトにも参画

バンクーバー住民の集いの場の一つであるCollingwood Neighbourhood House。個人的に絵を描いてきた陽子さんが、同施設のアートクラスでのボランティア活動をきっかけに、そのクラスをリードするようになったのは2005年のこと。以来コミュニティアーティストとして活動の場を広げ、Renfrew Park Community Centreでのアートクラスを受け持ち、地域のアートプロジェクトをリードする役も担ってきた。対象は子供からシニアまでと幅広い。

 

ラウンドハウスで開催したアーツ・アンド・ヘルス・プロジェクトの作品展示会のオープニングで参加者とともに

 

共同の物作りを通してコミュニティ作りを  

コミュニティアートのファシリテーターとして陽子さんが大事にしていることは「みんなで一緒に作ること」。そのため作品作りは個人のスキルに関係なく、老若男女誰もができるように計画する。「だからやることはシンプルに。誰でもやる気になるようにしています」。  共同でのバナー作りのプロセスはこんな具合だ。バナーにどんな絵が描きたいかと、最初のクラスで案を募る。その際、ドラゴンというアイディアが出てきたら、次の時間までに陽子さんが布地に輪郭だけのドラゴンの下絵を用意。その下絵に、皆がわいわいと楽しみながら塗り絵感覚で色付けをしていく。「一つの物をみんなで作ることを通して、ここマルチカルチャーの国カナダで人種、文化を問わず、一緒にコミュニティを作っていける醍醐味があるんです。そして自分自身、こうした活動を通して型にはまった考えから抜け出すことができてきました」。

 

絞りや刺し子、ペイントの技術を使って作成したテーブルクロスを囲んで

 

人と人とをつなげて  

Arts Health and Senior Programは、シニアの生涯学習とコミュニティ参加の機会。ここでも8年間絵などのアート指導をしてきたが、時には「あなたにはできるだろうけど…」と及び腰になる人もいた。そんなときは「リンダ、どんな風にこれを描けばいいか、ケビンに教えてあげて」と参加者同士で手助けするように促す。誰かが気にかける、そのことが心を開かせるのだろうか。いつしか一緒に製作に取り組んでいる姿がある。「人と人とをつなげていくこと。それがこの競争社会のなかで大事なことだと思うんです」。クラスの中で、参加者の持つ良さをぱっとつかんで引き立てる。どんどん声をかけて場を明るくする。陽子さんのさりげない気配りが皆の気持ちを盛り立てていく。  「個人のアートは自分だけの喜びだけれど、この仕事はみんなを楽しくする喜びがあるんです」その思いが活動の原動力だ。

  

「アートは自分の内側をストレートに出すことができる。そこに恐れはない。失敗したなら壊せばいい。だからアートは自分を癒してくれるのだと思う」と語る陽子さん。自身の最近の作品とともに

 

 

(取材 平野香利 写真提供 富田陽子さん)

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