先月1年半ぶりに姑に会う機会に恵まれた。現在71歳になる姑は、ショッピングが大好きだ。欲しいと思ったものは迷わず買う、いや欲しいと思ったものは壊れたり失くなったときのことも考えて二つ買うタイプの女性だ。その買いっぷりは、潔く、格好良く、見ていてスカッとする(と同時に義父の苦笑している顔が目に浮かぶ)。私と言えばその逆で、物欲がないほうだ。欲しいと思って買うのではなく、これは必要かどうか、それを先に考えてしまうので、結局あまり自分のために物を買うことがない。姑はそんな私の性格をよく知っているので、久々に会った今回も「孫たちにオモチャを買ってあげたい」という名目で、ショッピングに行く事になった。
オモチャ屋さんに行く前にSimonsに入りたいと姑は言った。Simonsはケベック州発祥のモダンな服屋さんだ。もちろんメインフロアにある女性服売り場に向かっている。「今年の夏はこのスカーフにこの麦藁帽子だわ。あ、これ見て!私こないだ同じもの買ったのよ」など姑のテンションは上がる。そして急にマネキンの前で立ち止まった。「マコ!この服、買いなさい!これはあなたに着てもらうためにディスプレーされてるようなもんよ」。姑の目的はやはり私の服であったことが明確になった。かわいいけど、今の私には必要がないことを伝えると、珍しく真面目な顔で姑が言った。
「あなたね、若いんだから、カワイイ服を着れるときに着ないとダメなのよ。私なんてもう71歳にもなっちゃったから、いくらカワイイ服を見て欲しいと思っても、自分の腕や足の皺なんかが気になって、もう着れないのよ。いくらお金があっても、買えないのよ!マコの場合、まだ着れるのよ。こんな服が着れるのは今だけよ。あなたには、歳をとってから後悔してもらいたくないの。ちょっとくらい値段の高い服でも、買ってしまって、若さをエンジョイしなさい!」
今までの姑の「マコ、買え!買え!」コールの裏には、そんな意味が隠されていたなんて、正直、驚きだった。もちろん歳をとった時の自分が、どう感じるかなんて考えたこともなければ、歳をとるにつれそんな悩みが出てくるなんて想像もできなかった。
そして私は久々に両手いっぱいに紙袋をさげ罪悪感を感じることなく家路に着いた。
■小倉マコ プロフィール
カナダ在住ライター。新聞記者を始め、コミックエッセイ「姑は外国人」(角川書店)で原作も担当。
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