2019年9月19日 第38号

 約30年前の日本でのこと。私が通っていた新潟の片田舎の学習塾の教室で、親と同じ世代の英語の先生が愛読していた雑誌が「週刊ダイヤモンド」。単純ながら、とてもインパクトの強いタイトルの「オッサンの読み物」だと思っていましたが、最近では私もそんな週刊ダイヤモンドをオンラインで読む年代となりました。そんな週刊ダイヤモンドで、最近日本の調剤薬局やドラッグストアについての特集記事が組まれ、非常に興味深い内容がありましたので、先月に引き続き日本の様子をお伝えします。

 9月14日号の書籍版の表紙には、ぞっとするようなタイトルがいくつも並んでおり、まず一番に目につくのが「薬局戦争」。カナダでも日本でも、薬局業は小売業に分類され、小売業の大きな使命の一つは、なんといっても売り上げの増加と生き残りです。しかし、企業が生き残るためには、時にはライバルと手を組むという手段もあり、去る8月22日、ドラッグストア大手のマツモトキヨシホールディングスとココカラファインが経営統合に向けた協議に入ったことが発表されました。日本のドラッグストアは、どのお店もほとんど一緒に見えるかもしれませんが、実は少しずつ違いがあり、マツモトキヨシはより化粧品の分野に特に力をいれており、ココカラファインは医薬品分野を強化しています。このように、異なる得意分野をもつ企業が合併することで、業界でのサバイバル戦争を生き抜こうとしています。

 次に目を引くタイトルは「6万店薬局の大淘汰時代到来!」です。今や日本国内ではコンビニやガソリンスタンドよりも多いと言われ、全国5万9000超の店舗数を誇るのが調剤薬局です。一時帰国した際に街をあるいていると、確かにあっちこっちに新しい薬局ができており、薬剤師ながらにビックリします。超高齢化を迎えている日本では、クリニックや薬局が高齢者の近所にあるに越したことはありませんから、大切な社会的なインフラであることは間違いありません。ただ、国としては、かかりつけ薬剤師が常勤し、24時間サポート体制を備え、また健康セミナーなどを行う健康サポート薬局を増やしていきましょうという流れにあり、逆にいうと、薬を揃えて渡すだけのという薬局はできるだけ無くす方向性が打ち出されています。

 ただ、現場での大きな問題は、「私をかかりつけ薬剤師にしてください」と患者さんにお願いするだけでなく、患者さんの自己負担額が60円〜100円程度増えることも説明し、同意を得なければいけないことです。かかりつけ薬剤師として、より一層のサービスを提供しますので、その分余計にお金を支払って頂くという仕組みに同意してもらう訳です。しかし、自己負担額が増えると聞いたとたん、弾んでいた患者さんとの会話は一気によそよそしくなることも多々あるとか。それでも薬剤師がこのようなお願いをするのは、患者さんのかかりつけ薬剤師になることで、かかりつけ薬剤師指導料、かかりつけ薬剤師包括管理料、そして地域支援体制加算といった、薬剤師の仕事に対する報酬が発生するためです。

 薬剤師は決してセールスマンではありませんから、報酬を得るためとはいえ、このような説明を毎日繰り返していたら、それだけで疲れます。それが、もうひとつのタイトル「疲弊する薬剤師」に直結します。ただ、薬剤師が疲弊する原因は、かかりつけ薬剤師のお願いだけではありません。カナダではもはや当たり前であるジェネリック医薬品の使用についても患者さんによっては、まだまだ説明が必要で、これがまた大変。カナダでは、公費負担や民間保険の有無によっては全額自己負担というケースも多いので、ブランド名(先発品)がどれだけ高価なものかがすぐに分かりますが、日本では患者さんの自己負担が3割という場合が多いので、ジェネリック医薬品のありがたみが薄れるのでしょう。また、今だに、安かろう悪かろうというイメージを払拭できない患者さんもいるようです。そして最後に、待ち時間の問題です。基本的に薬局では、十分なスタッフの数を揃えていますが、それでも人の流れは予想不可能。そんな中で、薬の使用方法などの説明時に、様々な理由から人に話を聞いてもらいたい患者さんに遭遇することはよくあります。でも、そんな会話の中から、患者さんが本来の指示とは異なる用法・用量で薬を服用していたり、薬の副作用や相互作用が発覚することもあるので、むげに扱うことはできません。すると、他の患者さんの薬の待ち時間がどんどん長くなってしまいますし、ときには、しびれを切らした患者さんからは苦情が出ることも。

 このように、日本では色々なことが起こっていますが、知り合いを見渡す限り、日本の薬剤師が全員疲弊している訳ではありませんし、結構みんな生き延びています。超高齢化社会の日本だからこそ、薬局戦争の中を生き延びてほしいと、カナダから願っています。

 


佐藤厚

新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。
2008年よりLondon Drugs (Gibsons)勤務。
2014年、旅行医学の国際認定(CTH)を取得し、現在薬局内でトラベルクリニックを担当。
2016年、認定糖尿病指導士(CDE)。

 

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