2019年6月20日 第25号
最近、よく誤解されるのでお断りしておきますが、私は大麻の使用を推進している訳ではありません。日本では違法薬物であるという理由で、大麻をタブー視したり、非常に敏感になる日本人の方が多いのですが、国際的にみても、医療用または嗜好用の合法化の大きな流れが生まれており、もはや無視できるレベルのものではありません。日本では、欧米での合法化に伴い多くの若者が興味を示し、その結果、大麻による検挙数は近年増加傾向を示しています。ここまでくると、大麻についての正しい知識を提供し、予期される被害を最低限に防ぐハームリダクション的なアプローチが必要であると、薬剤師としては考えるのです。
「お酒は飲んでも飲まれるな」と言われるように、度が過ぎるとアルコール中毒や肝機能障害へと繋がり、眠気や判断力の低下から飲酒運転もご法度です。タバコも同様で、長年の喫煙により肺がんや慢性肺閉塞性肺疾患(COPD)が起こりやすくなります。大麻の場合は、程よい酩酊感・高揚感を得るために使用する人が多い一方で、悪心・嘔吐等の体調不良、精神疾患の誘発、悪化を招くことがあります。いずれの嗜好品も今のカナダでは合法的に販売されている訳ですから、上手な付き合い方が重要となります。
一言で大麻といっても、その成分や摂取方法によって予期される効果は異なります。大麻草からは100種類以上の生理活性物質(体の働きを調節する作用を持つ物質)が知られており、これらは総称してカンナビノイドと呼ばれます。このうち、酩酊感のような精神作用を起こす物質が、1964年にイスラエルのRaphael Mechoulam博士とYechiel Gaoni博士により分離・同定された「テトラヒドロカンナビノール」(英: Tetrahydrocannabinol; THC)です。THCには、注目すべき医療効果として、痛みの緩和、制吐、抗けいれん、食欲増進といった効果があります。
一方で、大麻の成分でありながら、俗にいう「ハイ(High)」の状態を起こさない物質がカンナビジオール (cannabidiol; CBD) と呼ばれるものです。難治性小児てんかんの治療薬として米国で販売されているEpidiolexの主成分である他、抗炎症作用,鎮痛作用,制吐作用,抗不安作用や糖尿病,癌,アルツハイマー病などの予防や治療の有効性が報告されています。
大麻は「吸引」するものというイメージをもつ人は多いと思います。実際にバンクーバーの街を歩いていても、この煙の匂いがどこからともなく漂っています。大麻を吸引した場合、体内への吸収速度は非常に早く、吸引後5〜10分で効果が見られ、20分から30分までの間に最大濃度まで到達します。非常に短時間で酩酊感が得られると同時に、医療用目的で使用した場合、非常に即効性のある薬と考えることができます。吸入した場合の作用の持続時間は2〜4時間程ですが、これは吸入の深さや頻度、息の止め具合によって変化します。
これに対して、クッキーやグミ、またはオイルの入ったカプセルという経口的に大麻成分を摂取した場合、効果の発現までに1、2時間を要しますが、その後6〜8時間にわたり作用が持続します。現時点においてはTHCを含む嗜好用の食用大麻は違法とされていますが、現実的には米国やオンラインショップ等では既に入手可能となっています。今年の10月までには、THC・CBDを含有する食用製品ついてのカナダ国内の法整備が整う見通しです。
この他にも、舌下スプレー(sublingual spray)という形でも販売されており、文字通り「舌の下」に向けてスプレーして使用します。成分が血流の豊富な口腔粘膜から吸収されるため、15〜45分と比較的短時間で効果が見られ、作用は6〜8時間が持続します。
大麻の場合、一般的な薬とは異なり、この程度の量から始めましょうという基本的な用量が決められていません。現時点でのコンセンサスは、最も少ない量から始め、必要に応じて量を増やしましょうというのが基本となります。
また、副作用として、大麻の吸入では気管支炎との関連が指摘されている他、神経症状(めまい、傾眠、頭痛、知覚低下)、消化管症状(吐き気、下痢、便秘、嚥下障害)、精神症状(多幸感、見当識障害、解離、言語障害、幻覚)が報告されており、目的を問わず安全に使用することが大前提となります。
大麻の研究目的での使用規制緩和に伴い、バンクーバーにあるブリティッシュ・コロンビア大学や米国の大学では研究に大きく力を入れ始め、また薬局では「カンナビス指導士(Cannabis Educator)」という資格を持った薬剤師も登場しています。大麻に関する疑問がある方は、薬局薬剤師に相談してみてください。
佐藤厚
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。
2008年よりLondon Drugs (Gibsons)勤務。
2014年、旅行医学の国際認定(CTH)を取得し、現在薬局内でトラベルクリニックを担当。
2016年、認定糖尿病指導士(CDE)。