2019年3月21日 第12号
今回は関節リウマチの話の続きですが、まずはお詫びです。前回の記事の中で、疾患名を一部「リウマチ性関節炎」と表記しましたが、現在の日本リウマチ学会総会による名称は「関節リウマチ」となっています。お詫びの上、訂正いたします。
薬物療法のない時代は、関節リウマチの治療は温泉などの温熱療法に頼っていたそうです。しかし、今から90年前の1929年に、金(gold)が関節リウマチに効くことが分かり、金の注射剤が使われるようになりました。炎症の原因と考えられる免疫異常に作用し、それを改善することが証明された薬を総称して、「疾患修飾性抗リウマチ治療薬(Disease modifying antirheumatic drugs)」と呼びますが、金製剤はその第一号ということになります。その後時間をかけて新しい薬が開発されてきたため、今では金製剤はあまり使われなくなりました。
1948年に開発され、当時は小児白血病の治療に使用されていたものの、その後関節リウマチ治療にも使用されるようになった薬がメトトレキサート(英:methotrexate)です。
少し横道にそれますが、今年に入って日本の競泳選手、池江璃花子さんが白血病(血液のガン)であることを公表しました。昔であればメトトレキサートで治療するのが標準でしたが、現在ではより新しい薬の登場により高い確率で治癒が可能になってきました。18歳と非常に若い選手ですから、治療が順調に進むことを願うばかりです。
メトトレキサートという薬は、白血病治療においては以前ほど使用されなくなった一方で、関節リウマチの治療においては世界的な標準治療薬として使われています。関節リウマチは、生体の免疫システムが、自身の正常な細胞や組織を攻撃することで症状を起こす自己免疫疾患ですが、メトトレキサートは、その免疫システムを抑制することで効果を発揮します。より専門的な説明を加えるとすれば、メトトレキサートは代謝拮抗薬と呼ばれ、免疫作用に関与する葉酸の代謝に拮抗することで細胞増殖を抑制します。
飲み方としては、通常、1週間に1日だけ服用します。一度にまとめて服用することもあれば、同じ日の朝と夜の2回に分けて服用することもあります。薬の服用を始めてから、2週間から4週間で効果がみられ、その後3〜6カ月間にわたり効果が増強します。薬の効き具合と副作用を見ながら、医師が量を調節していきますが、治療が上手く進むと、最終的には7割くらいの患者さんに、関節の痛みや腫れが軽くなる効果がみられ、2割くらいの患者さんは、ほぼ完全に痛みや腫れがなくなる状態(これを「寛解」と呼びます)になります。 抗リウマチ薬の中では、有効性が高く、継続しやすい薬といえます。
一方で、メトトレキサートの薬の説明書には、通常の何倍もの副作用が列記されており、注意が必要な薬ともいえます。メトトレキサートは葉酸の働きを阻害することにより効果を発揮しますので、 その影響で口内炎、 吐き気、 下痢、 肝機能の異常といった副作用が生じることがあります。このような副作用を防ぐために「葉酸」(Folic acid)を服用するように指示を受ける方もいます。薬の効果を適切に維持するためには、メトトレキサートの服用日以外に葉酸を服用、つまり1週間のうち6日間は葉酸を服用し、葉酸を服用しない日にメトトレキサートを飲むという形になります。
今年2月、芸能人の堀ちえみさんが舌がんを患ったというニュースが流れました。メトトレキサートの副作用による口内炎と思われていた症状は、実は舌がんであったというものです。メトトレキサートを服用している人の約40%で口内炎ができますから、医師がこれを舌がんと判別するのは大変難しかったと思います。舌がんについては、すでに切除・再建手術を受けられたそうですから、堀さんが1日でも早くテレビに戻られることを願っております。
メトトレキサートの重大な副作用として「急性間質性肺炎」(肺の中の小さな袋状の肺胞と毛細血管を取り囲む間質と呼ばれる組織に生じる炎症)があり、これは服用開始後、どの時期でも発症する可能性があります。また、メトトレキサートは、体の免疫機能を抑制しますから、感染症にかかりやすくなります。従って、特に高齢者においては注意が必要で、発熱や体のだるさ、嘔吐があった場合、速やかに医師に相談する必要があります。また、 催奇性があることから、妊娠を考えている男女、妊娠中の方は服用できません。
(続く)
佐藤厚
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。
2008年よりLondon Drugs (Gibsons)勤務。
2014年、旅行医学の国際認定(CTH)を取得し、現在薬局内でトラベルクリニックを担当。
2016年、認定糖尿病指導士(CDE)。