2019年4月18日 第16号

 義理の母が関節リウマチのために遠隔介護が必要となったことをきっかけに書き始めたリウマチ特集も最終回となりました。まだまだ書きたい内容がたくさんあるのは事実ですが、今回は現在の関節リウマチ治療に欠かせない2つのトピックに絞ってお話します。

 関節リウマチは、根本的な原因は不明であるものの、自己の免疫システムが誤って自分の正常な細胞を攻撃することにより関節が炎症を起こす疾患です。つまり、最大の問題は「炎症」が起こることで、この炎症を薬で抑えることができれば、関節リウマチとお付き合いできるかもしれないという希望が持てるわけです。

 臨床的に非常に効果のある抗炎症薬として幅広く使われているのが、副腎皮質ステロイド(英:corticosteroid)です。これは副腎皮質ホルモン剤と呼ばれることもあります。「副腎」とは、左右の腎臓の上にくっついている小さな臓器で、その皮質(英:cortex)という部位から分泌されるのが副腎皮質ホルモンです。また「ステロイド」とは、4つの環からなる基本骨格をもつ化合物の総称で、つまり薬の化学構造を意味しています。

 副腎皮質で作られるステロイドホルモンには幾つかの種類がありますが、このうちのコルチゾン(Cortisone)と呼ばれる化合物に抗炎症活性があることを見いだしたEdward Calvin Kendall (米国)、コルチゾンの化学構造を決定し、合成への道を開いたTadeus Reichstein (スイス)、コルチゾンを臨床適応して関節リウマチに効果があることを示したPhilip Showalter Hench (米国)の3人は、その大きな功績が認められ、1950年に揃ってノーベル医学・生理学賞を受賞しました。

 現在のカナダでは、主に合成副腎皮質ホルモン剤であるプレドニゾン(prednisone)が関節リウマチの治療に使用されています。プレドニゾンはそれ自身では作用を持たず、肝臓で「プレドニゾロン」という物質に代謝され、抗炎症作用を示します。(カタカナ一語で作用に大きな違いが生まれるのです!)ちなみに、日本ではプレドニゾンは承認されていませんが、これと類似の合成副腎皮質ホルモン剤が使用されています。

 コルチゾンは抗炎症効果を持つステロイドですが、その発見当時からいくつもの副作用が知られていました。副腎皮質ステロイドの代表的な副作用には、クッシング症候群(慢性の糖質コルチコイド過剰による症候群)、満月様顔貌(顔に脂肪が沈着して満月のように丸くなった状態のこと。ムーンフェイス)、多毛、高血圧(体内に塩分が溜まりやすくなるため)、骨粗鬆症、血糖値上昇(糖を合成する働きが高まるため)、消化性潰瘍(消化管粘膜が弱くなるため)、精神病増悪(不眠症、多幸症、うつ状態など)などといったものがあります。また、副腎皮質ステロイドは、免疫抑制剤としての作用から、体の抵抗力が低下するために、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなります。

 しかし、これらの副作用はステロイド薬を服用する全てに認められるものではなく、疾患、薬の量、内服期間などにより様々です。自己判断によりステロイド薬の服用を急に中止すると、倦怠感、吐き気、頭痛、血圧低下などの症状(ステロイド離脱症候群)も出ますので、主治医と相談しながら薬の量と副作用を管理するのが非常に大切です。

 このように、従来の抗リウマチ薬やステロイド剤だけではリウマチ治療の限界がうかがえますが、実は人類の叡智と最先端の技術を組み合わせた新しい医薬品が、過去10年間の関節リウマチの治療を大きく変えてきました。これが生物学的製剤((英)biologics、バイオ医薬品) と呼ばれる薬です。最先端のバイオテクノロジー技術を駆使して、もともと体内にある物質を、医薬品として製造したものです。炎症や骨破壊を起こす物質に直接作用することで炎症を抑え、また関節破壊を抑制します。代表的な薬には、Remicade®(成分名infliximab)、Embrel®(etanercept)、Humira®(adalimumab)、Orencia® (abatacept) 、Simponi® (golimumab) があります。投与法は薬によって異なり、皮下注射または点滴となります。

 生物学的製剤の一番の難点はコストです。保険の有無や薬により異なりますが、基本的に全額自己負担の場合、1カ月分の薬代は1500から2000ドル程度します。手に入る医療は、個人の経済状況により左右されるべきものではなく、また製薬会社も支払いサポートプログラム等を設置し、より多くの患者さんの手に薬が届くようにしています。

 これで関節リウマチシリーズは終わりにしますが、カバー仕切れなかった内容は、今後隙を見つけて、解説して参ります。

 


佐藤厚

新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。
2008年よりLondon Drugs (Gibsons)勤務。
2014年、旅行医学の国際認定(CTH)を取得し、現在薬局内でトラベルクリニックを担当。
2016年、認定糖尿病指導士(CDE)。

 

 

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