2018年2月15日 第7号
日頃、私が薬局で受ける質問は、薬に限った話だけではありません。新しい年が明けて数ヶ月間の間は、「薬代はいつも保険でカバーされるはずなのに...」といった薬代についての質問が特に多くなります。そこで今回は、薬が保険でカバーされない代表的な理由をリストアップしてみます。
① 保険に登録・加入していますか?
薬剤費を負担するような保険に登録・加入していなければ、薬代は常に全額自己負担となります。ブリティッシュコロンビア州の公的保険制度のうち、薬代を負担する保険は「Pharmacare」です。このPharmacareには、いくつかのプランがあり、最も一般的なプランが「Fair Pharmacare」という、2年前の収入に応じて免責金額が設定されるプランです。
Medical Service Plan(MSP)とは別に、任意で手続きする必要があり、電話(Lower Mainlandからは604-683-7151、その他の地域からは1-800-663-7100)またはオンライン(https://pharmacare.moh.hnet.bc.ca)で登録手続きができます。
Fair Pharmacareの手続きをする際、一切お金はかかりません。手続きが完了すると、登録番号が発行され、免責金額が設定されます。免責金額に達するまでは全額自己負担、その後30%が自己負担(70%が公費負担)、そして世帯年間最大額に到達すると自己負担はゼロ(100%が公費負担)となります。(注意:保険が適用されるのは、ベネフィット薬と呼ばれるフォーミュラリー収載薬のみで、医師の処方する全ての薬がカバーされるわけではありません。)
次に、民間保険(Extended care plan)について考えてみます。多くの場合、雇用者が福利厚生の一部として団体加入し、雇用者と被雇用者が契約内容に従って、毎月一定額を納入します。もちろん、民間保険に個人で加入することもできます。保険会社から送付されたカード(その電子版も含む)があれば、薬局スタッフに処方せんを渡すときに、一緒に提示してください。
② その保険は有効ですか?
過去にFair Pharmacareに登録したことがある人でも、薬局で再度登録手続きを促されることがあります。これは、薬剤費のオンライン請求時に、「未登録」(Not registered; NR)と表示される為で、この場合に強く疑われるのは「インカムタックス・リターン(確定申告)」が滞っている状態です。Fair PharmacareはCanada Revenue Agency(CRA)と連携して免責金額の設定を行うため、インカムタックス・リターンを毎年期限内に行う必要があります。「そう言えば、去年のインカムタックス・リターンをやってない!」という人は結構いますが、これは薬代に影響してきますのでご注意を。
Pharmacareには、疾患に応じた特定のプランがあり、精神疾患治療薬の費用を全額負担する「Plan G」もその一つです。Fair Pharmacareが自分で手続きをするのに対し、Plan Gは医師が政府に申請をします。承認された場合には、承認日から一年間有効となりますが、患者さんの手元には確認書類等が一切残らないため、忘れた頃にPlan Gの期限が切れて、自己負担が発生するという事態は頻繁に起こります。医師がPlan Gを申請した大体の時期を覚えておいて、その後1年が過ぎる前に、処方医にPlan Gの更新をリクエストしましょう。
民間保険プランにおいても、ある日突然「無効です」と表示されることがあります。この時に私がすぐに確認するのは、民間保険の変更の有無です。会社によっては、「X月Y日から、保険会社を変更します!」と従業員に親切にお知らせしてくれる場合もありますが、そうではない会社も多々あります。一切の連絡無しに、ある日突然保険会社が変更され、その後数週間して変更の連絡と共に新しいカードが被雇用者の元へ届いたという話はよく聞きます。しかし、民間保険が変わったことを知らずに、薬局で高額の薬を購入することになった患者さんは、大きな値段の違いにとても驚かれます。このような時には、落ち着いて福利厚生を担当する部署(通常はHuman resource; HR)に連絡を取り、民間保険に変更がないかどうかを確認してください。
(続く)
佐藤厚
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。
2008年よりLondon Drugs (Gibsons)勤務。
2014年、旅行医学の国際認定(CTH)を取得し、現在薬局内でトラベルクリニックを担当。
2016年、認定糖尿病指導士(CDE)。