2018年1月18日 第3号

バンクーバー新報読者の皆様、新年明けましておめでとうございます。2018年も、薬学的に重要度の高いと思われるトピックだけでなく、時勢に合わせた薬の話をして参りたいと思います。どうか宜しくお願い申し上げます。

 ここ2、3年の間に、メディアによる宣伝が活発になり、またドラッグストアでも販売スペースを大きく占拠するようになった商品といえば、プロバイオティクス(Probiotics)です。

 Probioticsは日本語で「善玉菌」と訳されていますが、語源を辿ればギリシャ語に由来する「生命の(biotic)ため(Pro)」という意味で、抗菌剤(抗生物質)であるantibioticsに相対する概念になります。

 プロバイオティクスがいかにも万能薬であるかのような宣伝には誇張がありますが、様々な疾患に対する効果に関する研究は確かに進められており、感染に対する抵抗力が増加したり、アトピー性皮膚炎抑制やピロリ菌抑制などにも効果があるという報告もあります。

 日本では、腸内の健康を整えるという特定の効果を謳った商品は何十年も前から販売されており、例えば乳酸菌飲料「ヤクルト」の販売がスタートしたのは1935年です。(参考:ヤクルト社ウェブサイト, http://www.yakult.co.jp/shirota/what/, 2018年1月9日アクセス)。また最近では、菌類を摂取し、腸内を整える活動を表現するのに「菌活」、「腸活」という言葉を使うメディアもあるほど、腸内健康への関心は高まっています。

 一言でプロバイオティクスや善玉菌と言っても、そこには非常に多くの種類の微生物が含まれ、ヒトへの作用も千差万別です。生きたまま腸に辿り着き、そこで産生する乳酸などの代謝産物が、ヒトにとって有益な健康効果をもたらすのが乳酸菌です。乳酸によって、腸内の悪玉菌の増殖を抑え、有害物質が減少するだけでなく、腸の機能が活性化され、消化吸収が促進することで、便秘や下痢の解消・予防にもつながります。

 抗菌剤は、人類史上非常に沢山の命を救ってきましたが、“intestinal flora”や、“intestinal microbiota”と呼ばれる腸内細菌叢に悪影響を及ぼすことも分かっています。抗菌剤の服用時に、最もよく見られる副作用は、ズバリ「下痢」で、人によっては服用開始後数時間から見られ、薬を飲み切った後も続くことがあります。

 クリンダマイシンやフルオロキノロン系抗菌薬といった抗菌薬の使用により、Clostridium difficile(クロストリジウム・ディフィシル、以下C. diff)という細菌が繁殖して、下痢の原因となることがあります。また、C. diffが異常繁殖して重症化した場合、大腸炎を引き起こすこともあります。このような腸内細菌の乱れを抑えるという意味ではプロバイオティクスは非常に有用です。

 プロバイオティクスには、過ぎたるは猶及ばざるが如しという表現がよく当てはまり、成分量が増えればそれだけ効果が増すというものではありません。プロバイオティクスを選ぶときに大切なのは、その種類です。Align®, Culturelle®, Florastor®といった商品は、いずれも他のサプリメントに比べて高額ですが、特定のプロバイオティクスを用いた臨床研究の結果を基にして、販売されています。

 ちなみに、抗菌剤に対する耐性菌が国際的な問題となっていることから、本当に必要な場合を除いては、抗菌剤の使用を避けようという動きがあります。例えば、ウィルスによって引き起こされる風邪では、カナダでは抗菌剤は一切使用されることはありません。遅ればせながら日本でも抗菌剤の使用についての新しいガイドラインが敷かれ、抗菌剤の過剰使用を是正していく動きがあります。

 日本人は元来、味噌や納豆を日常的に摂取して生活し、これらの食品には実はプロバイオティクスが豊富に含まれています。手軽なプロバイオティクスサプリメントの一つの手段ですが、味噌のような発酵食品を食事に取り入れることができれば、他の栄養素も同時に摂取でき、より効果的です。

 2018年は、皆様が健康な腸内環境を手に入れて、健康に過ごせますように。

 


佐藤厚

新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。
2008年よりLondon Drugs (Gibsons)勤務。
2014年、旅行医学の国際認定(CTH)を取得し、現在薬局内でトラベルクリニックを担当。
2016年、認定糖尿病指導士(CDE)。

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。