2017年11月16日 第46号

 11月に入り、多くの人がインフルエンザの予防接種を受けるために薬局に足を運んでいます。特に今年はオーストラリアの冬季(つまりカナダの夏季)の間に、インフルエンザと診断された人の数は例年の約2.5倍に上り、北米でも同様のレベルの流行が懸念されています。

 2017年〜2018年のインフルエンザワクチンには、A/Michigan/45/2015 (H1N1) pdm09 - like strain、A/Hong Kong/4801/2014 (H3N2) – like strain、B/Brisbane/60/2008-like strain、B/Phuket/3073/2013-like strainの4種のウイルス株が指定されました。このうち2種のA型と1種のB型のウイルス株を含むものを「3価(trivalent)」、4種全てを含むものを「4価(quadlivalent)」のワクチンと呼びます。通常、大規模な流行に寄与し、重症化しやすいのはA型なので、3価のワクチンの効果が著しく劣るわけではありませんが、4価のワクチンの方が守備範囲が広くなります。

 BC州、ケベック州、ニューブランズウィック州以外の全ての州でUniversal vaccination(州民の予防接種は公費負担)としてインフルエンザの予防接種が行われている一方で、BC州では、一定の条件を満たす方のみが公費負担に該当します。その条件は、65歳以上の高齢者とその家族や介護者、6ヶ月以上5歳未満の小児とその家族、妊婦、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、ぜん息、糖尿病、腎疾患、肝炎等の慢性的肝疾患有する患者、ヘルスケア従事者などです。公費負担のワクチンの種類(3価または4価)はBCCDC(BC Center for Disease Control)の基準に従って決定され、年齢によって異なります。公費負担のワクチンの条件を満たさない場合は、全額自己負担となります。65歳以上の方でも、「Fluzone High Dose®」という高用量のワクチンを希望される方は自己負担となります。Fluzone High Dose®には、通常の4倍量のA型ワクチンが含まれており、インフルエンザに罹患しやすく、また重症化しやすい65歳以上の方において、通常用量のワクチンよりも予防効果が高いことが示されています。

 ところで、インフルエンザ流行時に肺炎で入院した患者の原因菌として、「肺炎球菌」がもっとも多いことをご存知でしょうか?インフルエンザワクチンと肺炎球菌の接種を合わせて行うことで、肺炎予防につながり、現在カナダには2種類の肺炎球菌ワクチンがあります。

 BC州で、65歳以上の方に公費負担で提供されるPneumovax23®は、23種類の肺炎球菌の血清型抗原を含むワクチン(23価)で、 肺炎を起こしやすい肺炎球菌の約80%をカバーします。既存疾患により追加接種が必要とされる場合がありますが、基本的には65歳以降に接種を1回のみとされています。

 一方、Prevnar13®は、13種類の肺炎球菌の血清型抗原を含み、肺炎を起こしやすい肺炎球菌の約60〜70パーセントをカバーします。 製造方法の違いにより、Prevnar13®はPneumovax23®よりも免疫誘導能力が高いのが特徴です。BC州ではHIVの患者さんを除き全額自己負担で、約110ドル(薬局により異なる)の費用がかかります。Pneumovax23®とPrevnar13®の2つの肺炎球菌ワクチンを併用することで、より高い肺炎予防効果が得られます。接種方法は、どちらの肺炎球菌ワクチンを先に受けたかによって異なり、65歳以上の方がPneumovax23®の接種を過去に受けた場合、最低12ヶ月を空けてPrevnar13®を接種します。65歳以上で、Pneumovax23®未接種の場合、初めにPrevnar13®を接種し、その8週間後にPneumovax23®を接種すると、肺炎の予防効果が最も高くなります。

 カナダでは、2009年から薬局薬剤師が注射を行うようになり、予防接種は薬局で受ければ良いものであるという幅広い認識が得られるようになりました。公費負担のインフルエンザワクチンに該当するかどうか、Pneumovax23®の追加接種が必要かどうか不明な場合など、薬剤師にご相談ください。

 


佐藤厚

新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。
2008年よりLondon Drugs (Gibsons)勤務。
2014年、旅行医学の国際認定(CTH)を取得し、現在薬局内でトラベルクリニックを担当。
2016年、認定糖尿病指導士(CDE)。

 

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