2017年12月14日 第50号
「認知症」を「痴呆症」や「老人ボケ」と呼ぶ人は未だになくなりませんが、認知症についての正しい理解は、ゆっくりではあるものの、一昔前より広く浸透してきているようです。しかし、「認知症は年寄りがなるもの」という誤解から、若年性認知症についての世間の理解は浅いのが現状です。異変を感じながらも、本人や家族だけでなく、医療従事者も認知症と気付かずに対処が遅れてしまう傾向が強く、若年性認知症の人を、家族や周囲の人たちがどのように支えていくのかが、世界的にも大きな課題となっています。
若年性認知症とは、64歳以下で発症する認知症を指します。稀に30代で発症する場合もありますが、多くは、発症年齢が42歳から61歳と推定されています。女性よりも男性に多く、脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症が圧倒的に多いと報告されています。働き盛りの世代にあたるため、本人や家族の生活、特に経済面に大きく影響します。
公益財団法人「認知症の人と家族の会」は、2013年に、会員465名を対象に「認知症の診断と治療に関するアンケート調査」を行いました、その報告では、最初の受診から確定診断にかかった期間は、全体平均で6カ月、76・2%の人が1年以内に確定診断を受けています。64歳以下の場合も、6カ月、1年未満までに診断された割合は全体と大差ありませんでしたが、2年未満までの合計を見ると、90・4%(全体の86・1%)とその割合が高くなっています。特に、1年以上2年未満の割合が高いことが特徴として見えてきました。最初の受診から確定診断までに時間がかかった理由として、「医師が認知症と診断しなかったため」という回答が最も多いことに変わりはありませんが、全体の45・3%に対し、64歳以下は73・0%と、その割合に格差が見られます。その他の理由については、「医師に症状を十分に伝えられなかったため」、および「受診する医療期間を変更したため」という回答が全体より若干多くはありますが、突出した違いではありません。
では、なぜ医師が若年性認知症の症状を見落とすのか。認知症の専門医は、鬱などによる判断力の低下と認知症を混同しやすいことを指摘しています。その背景には、医師の医学的な認識不足や診断の難しさが見えてきます。専門医でない限り、40代、50代の人と認知症を結びつけて考えることはまずないでしょう。また、認知症の初期には、認知症ではないかと悩み、鬱病を発症する場合もあり、鬱病の治療をしても回復が見られないため詳しく調べた結果、認知症だったというケースも少なからずあるからです。さらに、若年性認知症の場合、脳の画像検査ではっきりとした所見が出やすいという高齢者の認知症の特徴が出にくいことも、診断が遅れる一因です。
若年性認知症に限らず、認知症の早期発見のキーワードは「変化」にあります。「変化」の「頻度」、「程度」、「広がり」に注目します。「頻度」については、もともと忘れっぽい人もいますが、忘れることがそれまでよりも多くなっていないかに気を付けます。「程度」については、単なる度忘れではなく、会議の時間を間違えたり、友達との約束をすっぽかしたりという深刻な場合を指します。「広がり」は、物忘れ以外に、計算ができない、道に迷う、道具がうまく使えないなどがあれば注意が必要です。
毎日一緒にいると気付かないことはありますが、毎日顔を合わせているからこそ気付けることは多いはずです。特に、若年性認知症は、専門医でない限り診断が難しいことを踏まえて、「何か違う」という直感を信じ、ふとした変化を見逃さないこと。変化に気付いたら、すぐにファミリードクター(かかりつけ医)に相談し、専門医(神経内科医、精神科医、老年科医など)を紹介してもらうこと。日本の家族のことであれば、同居している家族や周囲の人に頼み、「物忘れ外来」、「認知症外来」、地域の「認知症疾患医療センター」などの受診に同伴してもらうこと。後悔しないためにも、できるだけ早く行動に移してください。
ガーリック康子 プロフィール
本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定