2017年12月7日 第49号

 認知症のリハビリテーションのひとつに、思い出を生かす「回想法」があります。昔使った道具や玩具などで記憶を蘇らせ、脳を活性化する方法です。この方法は、1960年代にアメリカの精神科医、ロバート・バトラー氏が提唱した心理療法です。当初は、高齢者のうつ病の治療方法のひとつとして行われていました。その後、長く続けることで、認知機能の改善にも役立つことが明らかになり、認知症の専門家も回想法の効果に注目しています。現在では、認知症のリハビリテーションとしても実践されるようになり、介護施設などでも取り入れられています。昔のことを回想することで、海馬や前頭葉を刺激し、他人とのコミュニケーションを取りながら行うため、より前頭葉が活性化します。

 回想法には、1対1で行う「個人回想法」と、6人から8人ほどのグループで行う「グループ回想法」があります。「個人回想法」は、特別な知識がなくても家庭で行うことができます。「グループ回想法」は、施設などで専門家と一緒に行うのが一般的です。「グループ回想法」には、他の参加者とともに過去を楽しみながら語り合えるという特徴もあります。認知症になると、短期記憶に障害が現れますが、多くの場合、長期記憶は維持できています。つまり、少し前にあったことを記憶することが困難になりますが、昔のことについては覚えていることが多いため、回想法を行うことができるのです。いずれの方法も、記憶を引き出す「きっかけ」を用意することが大切です。昔使った道具や子供の頃に遊んでいた玩具、昔の写真、昔流行った映画のポスターなどだけでなく、映像も役立ちます。過去のテレビ番組を見ることにより、当時の記憶が蘇ってきます。気心の知れた人とおしゃべりをしながら、一緒に見るのがいいようです。日本の例ですが、高齢者が青春時代を過ごした頃のポスターを掲示している介護施設や、施設の一角に、ドラマのセットのような、懐かしい道具がいっぱいのスペースがあるところもあります。

 質問で記憶を引き出す場合も、曖昧な表現よりも、「ふるさと」、「小学校時代」、「仕事」、「友達」、「結婚」、「出産」などのような、具体的な人生の節目のキーワードを取り入れるといいようです。引き出された記憶から、それまでの人生やこだわりなどを深く知ることで、日々の介護にも役立てることができます。認知症の人とその介護者との信頼関係を築く一助にもなる、お互いを理解するための有効な手段といえるでしょう。ただし、中には思い出したくない事柄もあります。そのような場合は、無理に話を聞こうとするのは逆効果になることを心得ておかなくてはなりません。また、「回想法」で大切なのは、実際に起きた事実を正確に思い出すことではなく、記憶をたどることにあります。事実と異なることがあっても、決して訂正せず、耳を傾けます。既に聞いたことのある内容でも、あえてそれを指摘しません。話題を、「今」ではなく「過去」にして、昔の体験を話すからこそ、良い効果が生まれます。

 「回想法」のポイントは、見る、聴く、触れるといった五感を刺激することです。五感を刺激することによって、昔を思い出すことで自信を取り戻し、前向きになります。おしゃべりしたり体を動かしたりすることで、 元気が出て明るくなり、感じている不安や孤独感、困った行動が改善されたり、意欲を向上させることができるともいわれています。これは、介護者にとっても嬉しいことではないでしょうか。薬物や本来は行われるべきではない身体拘束などで対応するのではなく、それらに代わる代替的な方法として、人として尊厳のある生活を維持するためのアプローチとして、「回想法」があるのです。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

 

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