2018年1月11日 第2号

 新しい年を迎えたこの時期、今までと違った自分を目指し、新年の抱負としての目標を立てる方も多いかと思います。健康維持のための運動、減量、無駄遣いを止めて貯金、家族や友達との時間を増やすなど、心に決めたことがあるかもしれません。しかし、毎年、決意はするものの、いつも三日坊主で終わってしまう。心当たりありませんか?インターネットで調べてみると、その成功率はわずか8%という数字が出てきました。目標を高く掲げすぎたり、実生活にそぐわない目標だったり、目標は掲げたものの、最初の勢いが長続きしなかったりと、その理由はいろいろ考えられます。

 しかし、認知症の人を介護していると、新年の抱負どころではないのが現実。新しい年になっても、日々の介護はいつも通り続き、先の目標など考えている暇などありません。また、認知症そのものは余命宣告を受けるような疾患ではなく、いつまで介護が続くか先が見えないため、長期的な目標がなかなか立てられません。それどころか、明日のことさえ予定通りにはいきません。睡眠障害の症状があり、昼夜が逆転している場合など、介護する家族の睡眠も妨げられ、一日の始まりと終わりの区切りさえわからなくなります。日中デイサービスに通っていても、介護者にとっては、毎日することは山ほどあります。年に数回、短期で介護の手伝いに日本に一時帰国していた私でさえも、一日があっという間に終わり、毎日少しずつ、やり残したことが増えていたような気がします。

 介護が長引けば長引くほど、どうしても日々の介護に追われ、介護が終盤を迎えた時に必要なことを決めないまま、その時を迎えてしまいがちです。認知症により、自立した生活ができなくなるだけでなく、判断力が低下してしまうと、特に金銭トラブルを招く原因になります。預貯金や不動産など、自分が所有する財産が把握できない、日常生活に必要なお金の管理ができない、売買や賃貸借などの契約で正しい判断ができない、詐欺などの被害にあう機会が増えるなど、金銭的な管理に支障をきたします。家族といえども、本人以外では手続きができない事柄も多く、家族が正式に「代理人」になる必要があります。安心して管理を任せられる家族がいない場合は、後見人を代理人として立てる手続きが必要です。

 認知症による判断力の低下は、遺産相続においても問題になります。本人(被相続人)が認知症の場合、遺言書に関するトラブルが起きやすくなります。遺言書を作成した時点で、正常な判断力があったかどうかが疑われる場合、遺言書そのものが無効になる可能性があります。また、家族(相続人)が認知症と診断されている場合、被相続人が亡くなった後の遺産分割協議を行うことができないことが考えられるため、後見人が必要になります。遺産分割において利益相反の可能性がある場合は、家族や親戚は後見人にはなれないため、特別代理人を選ばなくてはなりません。

 新年の抱負として異色ではありますが、金銭管理や相続のことで家族が揉めないよう、遺言書を作成することを目標にするというのはどうでしょう? 同時にリビングウィルも作成しておけば、怪我や病気で心肺停止状態になった時、蘇生のための医療的措置を希望するかどうか、希望する場合は、どの程度まで希望するかを明確にしておくことができます。そうしておけば、万が一のことが起きても、家族が困らずにすみます。遺言書やリビングウィルの作成にあたり、家族と差し向かいで話し合う良い機会にもなります。

 中年期を過ぎれば、認知症は誰がなってもおかしくないのです。しかし、遺言書もリビングウィルも、認知症が進んでしまっては作れません。できれば避けて通りたい事柄だからこそ、準備が必要です。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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