2018年2月15日 第7号

 前回のコラムで、 アミロイドβの蓄積を検出することにより、アルツハイマー病の識別ができる血液検査について記述しました。血液からの検出方法の確立は世界初で、治療薬や予防薬の研究開発や、アルツハイマー型認知症の早期発見などに利用することがかなり期待されています。その他にも、何か画期的な技術は発表されていないかとインターネットで検索してみると、これもまた興味深い方法が出てきました。

 それは、脳活動をセルフチェックできる測定キオスク端末で、東北大学と日立ハイテクノロジーズのジョイントベンチャー会社「NeU」と、健康測定機器の販売やレンタルを行う会社「ウエルアップ」が開発したものです。ユーザーの脳活動を手軽に測定し、測定結果に脳トレ情報を印刷して知らせるという「前頭前野セルフチェック」は、既に1月末より、店舗や施設向けに販売が始まっているというのです。

 この測定端末は、日常的な環境で計測が可能な近赤外線を使い、大脳皮質機能を脳表面に沿ってマッピングする「光トポグラフィー」技術を活用して、実際の脳活動を測定しながら、その結果を即時にユーザーに伝えるものです。コンテンツは、「脳トレ」の生みの親である、東北大学加齢研究所の川島教授の長年の脳科学研究の知見に基づいて開発されています。このようなシステムは、業界でもこれまでにないようです。

 ちなみに、「光トポグラフィー」は、もともとうつ病の識別診断補助として導入された技術です。脳の血流の変化を測定することで、抑うつ症状の原因が、うつ病によるものなのか、統合失調症なのか、双極性障害なのかの補助的な識別診断を、約7割から8割の精度で行うことができます。

 「前頭前野セルフチェック」は、簡易脳活動測定器、つまり「脳センサー」を付けて、3種類の簡単な問題を解くことで、脳の司令塔である前頭前野の血流をチェックし、脳の活動量をもとに、年代別のランク付けでその人の脳の活動レベルを評価します。同時に、「頭の回転速度」「注意力」「記憶力」などについて、脳の活動量と問題の回答率でスコアを算出します。結果はプリントアウトされ、「脳トレ」の方法や、その他の情報を提供します。

 日本では、65歳以上の高齢者が総人口に占める割合は30%近く、その中で認知症という診断を受けている人は、認知症予備軍を含めると、800万人以上とされています。国の医療費、介護費の負担がかさむ中、「前頭前野セルフチェック」のような技術は、高齢者層の健康維持に大きな貢献が期待されます。例えば、行政の福祉保健局や、公民館、体育館などに装置を設置することにより、地域住民の「脳の健康」への意識が高まります。測定結果のレポートに沿って、アドバイスを行うこともできるでしょう。また、薬局やスーパーなどにある血圧計のように、装置が設置されていれば、脳の活動レベルを定期的に確認し、測定結果に記載される「脳トレ」の方法を入手し、脳トレを始めるきっかけになるかもしれません。

 とにかく、日常的な健康管理の一環として、いろいろな技術や装置が簡単に利用できれば、嫌でも健康への意識が高まります。自分の体は自分が一番よく知っています。認知症を含め、いろいろな健康上の変化に早く気付くことができれば、病気の進行を食い止めることもできるかもしれません。歳を重ねていけば、体に何らかの変化が出るのは当然です。しかし、その変化が、大きな病気のサインということもあり得ます。

 体が出しているサインをそのままにしたことを後悔しないためにも、何かおかしいと思ったら、できるだけ早くかかりつけ医を受診しましょう。また、周りの大切な人たちの場合も同様です。健康上の変化に気付いたら、かかりつけ医の受診を促す。必要であれば、受診に同行してください。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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