2017年12月21日 第51号

 12月7日に、既に議会を通過していた法案、Bill C-277(カナダ緩和ケア法の枠組み、Framework on Palliative Care in Canada Act )が、エリザベス女王の勅許(法案成立に必要な形式的許可)を得ました。カナダ政府が、国全体としての統合力のある計画により、誰もが希望する終末期ケアの選択肢を選べるようにする法案の枠組みを作るためのものです。この枠組みの基本は、提供する緩和ケアのサービスの種類を全国で統一し、医療従事者に必要な訓練があればそれを提供し、必要とする患者が緩和ケアを受けられるようします。

 緩和ケアは、それを必要としている人が住んでいる地域により、その内容に大きな格差があり、治療そのものが受けられない場合もあるのが現状です。その格差を縮め、病院、長期保健施設、在宅など、どこで療養しているかに関わらず、同じ治療が受けられるようにすることが、カナダ政府としての大きな目的です。格差は、医療従事者の教育・訓練にも見られます。教育機関においてだけでなく、医療の現場での教育・訓練にも、早急な改善が必要とされています。また、この法案の背景には、「尊厳死」の選択肢としての「医師による幇助自殺」の適法化もあり、患者本人が望む方法で生きることが選択できるようにする動きの一環でもあります。

 WHO(世界保健機構)の定義によると、緩和ケアとは、「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期より、痛み、身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題に関して、きちんとした評価を行い、それが障害とならないように予防したり対処したりすることで、生活の質を改善するためのアプローチである。」とされています。病気だけを対象にする治療から、身体的な症状や副作用を抑えることだけでなく、悩みや不安など、心にあらわれる症状の相談も含み、全体的な生活の質の向上に繋がることになります。痛みのコントロール以外にも、食欲不振、息切れ、吐き気、倦怠感、下痢・便秘など、様々な症状に合った適切な治療や処置を行います。また、落ち込みや悲しみ、不安といった精神的な苦痛にも対処します。

 しかし、一般的概念として、緩和ケアは、もう治療方法がない終末期に、痛みを取るためのみに行うものと考えられる傾向があるようです。緩和ケア外来や緩和ケア病棟のない病院では、緩和ケアについて医師が正しく理解していないこともあり、精神的、社会的、経済的苦痛が伴うにも関わらず、病気のことだけしか相談できなかったり、 終末期に至っていない、つまり、まだ緩和ケアが必要な時期ではないと判断し、取り合ってもくれないこともあるようです。

 患者本人やその家族は、緩和ケアが必要になるのはまだまだ先のことだと思わず、辛くても現状を把握すること、その上で最善を尽くすこと、最悪の状況を想定して手立てを考えておくことが、大切です。最期を家で迎えたいのか、病院で過ごしたいのかも話し合っておくべきです。どこまで地域と関わり続けられるかを踏まえ、病気になっても生活を諦めないことで、その日その時にしたいことができれば、本望ではないでしょうか。しかし、どのような選択肢を選んでも、何らかの後悔は残るでしょう。それは、家族も同じです。できるだけ後悔の気持ちを小さくするためにも、家族もいろいろな知識を得る必要があります。また、「第二の患者」といわれる家族が頑張り過ぎないためにも、家族も相談できるような緩和ケアチームのスタッフがいることで、家族の生活の質も向上します。

 病気や症状が現在進行形の場合、どうしても目先のことに捉われがちです。目の前にある痛みや苦しみから対処していくことはとても大切ですし、それ以外のことは考えたくないという気持ちもあるでしょう。しかし、最終的にどのようなケアを希望するかというゴールを設定しておくことで、やり残したことが少しでも減れば、家族の気持ちに、小さくても安堵感が生まれるのでないでしょうか。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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