2018年8月30日 第35号

 「緩和ケア」という言葉から、何を連想しますか?もしかして、「死」をイメージする方も多いのではないでしょうか?

 「緩和ケア」とは、「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期より、痛み、身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題に関して、きちんとした評価を行い、それが障害とならないように予防したり対処したりすることで、生活の質を改善するためのアプローチである。(WHOの定義)」とされています。

 「緩和ケア」は、治療を受けている病院の「緩和ケアチーム」から受けることもできますし、緩和ケア病棟や自宅でも受けることができます。多くの方が、「緩和ケア」を余命が短い人に提供されるケアだと思っているようですが、実際は、余命に関係なく、先ほどの定義に示されている通り、治療の早期から受けることができます。主に、痛みや症状のコントロールのための措置が施され、不安や悲しみ、落ち込みや悩みなど、精神的な苦痛にも対処します。例えば、手術を受けた後の回復に向けて、一時的に緩和ケアが必要な場合もこれに当てはまります。また、自宅で療養している場合、激しい痛みをそのままにしておくと、日常的な生活に支障をきたします。継続的な痛みがある場合、薬を使わずにその痛みを我慢するより、定期的に薬を使い、ほぼ日常的な活動ができるレベルまで痛みを抑えることにより、QOL(Quality of Life=生活の質)が保たれます。できる限りいつも通りの生活を送るためには、痛くなる前に痛み止めを使い、痛みをコントロールすることにより、症状の回復が早まります。

 この「緩和ケア」の延長上に、「ホスピス」でのケアがあります。その基本は、生命を尊重し、死をごく自然な過程として認めることにあります。ですから、死を早めたり、引き延ばしたりする措置は行いません。死を迎えるまで、患者さんが人生をできる限り積極的に生きていけるように、 QOLを高めることに努めるとともに、家族が患者さんの闘病中や死後の生活に対応できるように支えることもその大きな役割です。しかし、「ホスピス」には、どうしても「死」を待つ所というイメージが付きまといます。余命が限られてきて、最期を迎えるまで、自宅で療養するか「ホスピス」に入るかという選択肢を示されると、自宅で療養することを選ぶことが多いのはこのためではないでしょうか。

 「ホスピス」では、緩和ケア病棟でできなかったことができるようになります。例えば、家族が好きな時に面会に行くことができ、必要であれば、病室に寝泊まりすることもできます。また、入所期間に制限はありません。しかし、緩和ケア病棟では、病院内の他の病棟と同じように、面会時間が決まっており、家族は病室に寝泊まりできません。ある程度病状が安定すると、他の病棟で入院している場合と同じように、ベッドをあけるため退院することになります。症状改善のために、あらゆる措置を行うのが緩和病棟ですが、ホスピスでは、痛みや苦しみを取り除くため以外の措置は行いません。これには、「 蘇生措置拒否=DNR(Do Not Resuscitate )」も含まれます。病院に入院している場合、容態が急変して心肺停止に至っても、心肺蘇生法を行なわず、静かにみとってほしい場合、その意思表示をする必要があります。心肺蘇生法の目的は救命ですから、終末期医療をサポートする「ホスピス」では行いません。食事をしなくなることは、死期が近づいている兆候のため、経管栄養や中心静脈栄養などで栄養補給をすることも、感染症の治療のために、抗生物質を処方することもありません。状況の変化に抗わず、静かにその時を待ちます。

 最期にどのような選択肢を選んでも、残り少ない時間を有意義に過ごし、悔いのない終わりを迎え、旅立つ。究極の人生の幕切れではないでしょうか。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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