2018年8月2日 第31号

 PPK。一体、何のことでしょう?

 これは、「ピンピンコロリ」の略で、「亡くなる直前までピンピンと元気に生きて、コロリと死ぬこと」からできた造語です。多くの人が望む、寿命の全うのしかたではないでしょうか。

 ところが、 特に日本の場合、実際は、長期的に寝たきりになって亡くなる「ネンネンコロリ(NNK)」が多いようです。確かに、日本の「平均寿命」は、世界でも一、二を争うほど長くなりました。しかし、この「平均寿命」と、 健康に問題のない状態で、寝たきりにならずに、日常生活を送れる「健康寿命」の間には、男女とも10年前後の差があります 。

 これまで、寿命の長さは、遺伝子が大きく関係しているという理論が一般的でした。しかし、長生きするには、遺伝子以外の要素も関わってきていることがわかってきました。いろいろな研究データから、科学者の間では、長寿は、直接的な遺伝子の影響が30%、残りの70%は、生活習慣、食生活、運動など、日常生活に関わる要素の影響を受けることが常識になっています。 長生きの遺伝子を受け継いでいても、必ずしも長生きするとは限らないということです。しかし、かなり不摂生をしていても長生きする人はいます。反対に、「健康」を絵に描いたような生活をしている人が、重篤な病に罹ることもあります。その理由については、専門家による詳しい研究を期待するところです。それでは、歳を取るにつれて、私たちの体では一体何が起きているでしょう?

 私たちの体は、だいたい 80歳を境に、運動能力が倍速で衰えを見せ始めます。筋肉量が著しく減り、肺はその弾性を失い、細胞内のミトコンドリアは退化し始めます。骨は脆くなり、バランス感覚も衰えてきます。

 それと前後して、65歳を超えると、認知症と診断される確率が5年ごとに倍増します。100歳まで生きられた人でも、認知機能に全く問題がないのは、そのうちの15%から25%にすぎません。これを裏付ける証拠のひとつとして、90歳の人の標準的な脳の大きさは、3歳児の標準的な脳の大きさまで萎縮するということもわかっています。特に萎縮が著しいのが、物事の計画を司る前頭葉や、記憶を保持する海馬の部分です。

 では、歳を取っても脳の機能の衰えが少ない人は何が違うのでしょう。どうも、この人たちには、「認知的予備力」といわれる、バックアップのためのシステムが備わっているようなのです。このバックアップ・システムは、脳の機能の一部がうまく働かなくなっても脳を機能させるもので、高学歴になるほど高いことがわかっています。ただし、この「認知的予備力」は、学歴は高くなくても、常に脳にチャレンジを課すことで、いつでも新しく蓄えることができます。 例えば、「読書をする」、「文章を書く」、「パズルをする」、「旅行をする」、「語学の勉強をする」など、脳の刺激になることなら何でも構いません。このような活動を続けることにより、脳がそれに順応することで、バックアップ・システムが鍛えられるという仕組みです。ちなみに、以前は、歳を取ると新しい脳の神経組織は形成されないと信じられていました。しかし、現在では、脳の神経組織の形成には年齢制限がなく、脳を使い、刺激を与えれば与えるほど、新しい神経組織が形成されることがわかっています。

 もうひとつ重要なのが、運動を続けることです。体の機能を維持するためには、週に150分(一日30分)、早足で歩く散歩が勧められています。また、骨を強化し、転倒を防ぐことができることから、多くのスポーツ医学の専門家は、更に、ウェイト・トレーニングを加えることを勧めています。運動をする習慣がない場合でも、座って行う作業をしている合間に、頻繁に立ち上がることだけでもいいようです。立ったり座ったりすることで体に重力の負荷がかかり、常に血圧センサーが調整され、血液循環を維持することに繋がります。

 「ネンネンコロリ(NNK)」ではなく、「ピンピンコロリ(PPK)」で 人生を全うしたいと望まない人はいないでしょう。しかし、「棚から牡丹餅」のようには事は運ばないようです。

 今からでも遅くありません。何か新しい事を始めましょう。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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