2017年4月27日 第17号
外科的治療の対象となる疾患、例えば、脳血管性認知症の原因となる脳血管障害、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫など、いくつかの場合を除き、認知症を完全に治す治療法はまだありません。しかし、症状の進行をある程度抑えることはできます。その中心となる治療法が、薬物療法と非薬物療法です。
薬物療法は、認知症の進行を抑え、脳の機能の低下を遅らせる効果が期待できます。薬物療法には、大きく分けて、①)認知症の原因疾患に対する治療と、②)認知症の症状に対する治療の二つの方法があります。
まず、原因疾患に対する治療として、認知症の中核症状(脳の細胞が壊れることで起きる直接的な症状)に対する、抗認知症薬の服用があります。現在、カナダで使用されている抗認知症薬には4種類あり、大きく分けて、神経伝達物質の減少を抑え、スムーズな情報伝達を助ける「アセチルコリンエステラーゼ阻害薬」と、カルシウムイオンが脳神経細胞に過剰に入り込むのを防ぎ、情報伝達を整える「NMDA受容体拮抗薬」の二つに分類されます。
主に、軽度から中度のアルツハイマー型認知症に、①アリセプト、②レミニール、③イクセロン(リバスタッチ)の「アセチルコリンエステラーゼ阻害薬」が使用されます。アリセプトについては、中度から重度のアルツハイマー型認知症、およびレビー小体型認知症の治療にもよく使用されます。いずれも、消化器系の不快感、頻尿・失禁、心拍・脈の乱れ、パーキンソン症状などの副作用が起きることがあります。
④エビクサ(日本ではメマリー)は、「NMDA受容体拮抗薬」で、「アセチルコリンエステラーゼ阻害薬」と異なる働きを持ち、併用して治療を行うこともあります。エビクサも、主に中度から重度のアルツハイマー型認知症に処方されます。副作用に、めまい、ふらつき、便秘、傾眠、幻覚・幻視、妄想などがあります。めまいやふらつきからくる転倒も起きることがあり、注意が必要です。
次に、認知症の周辺症状(二次的に起きる症状)としての行動・心理症状を改善するための薬の服用があります。①抗精神病薬および双極性障害治療薬、②抗うつ薬、③抗てんかん薬、④睡眠薬などの他、日本では漢方薬が処方されることもあります。抗精神病薬や双極性障害治療薬は、不安や幻覚・幻視、妄想、せん妄、徘徊、興奮などに使用されます。抗うつ薬は、うつ状態や性的逸脱行為などに、睡眠薬は、睡眠障害に使用されます。しかし、パーキンソン症状、意欲低下、めまい、ふらつき、食欲低下などの副作用が起きることがあります。
認知症の治療薬は、早期に服用を始めると改善効果が高いことがわかっています。いずれも、副作用に気をつけながら、医師や薬剤師の指示に従って、正しい量を服用することが大切です。
ガーリック康子 プロフィール
本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定