2017年5月18日 第20号
現在、認知症には、完治する薬がないだけでなく、何かをすれば絶対に認知症にならないという方法もありません。しかし、多くの研究から、どうすれば認知症になりにくいかについて、少しずつわかってきています。
認知症を予防する対策として考えられるものには、大きく分けて2つの方法があります。(1)認知症になりにくい生活習慣を心がけることと、(2)認知症で落ちる能力を、簡単なトレーニングで鍛えることです。続けていくことで、認知症の発症を防いだり、認知症になる時期を遅らせたりできる可能性があると考えられています。
認知症になりにくい生活習慣を考えるにあたり、認知症と生活習慣病の関係をみてみましょう。生活習慣病とは、食べ過ぎや飲み過ぎ、運動不足、喫煙など、体によくないと考えられる生活習慣から起きる病気のことです。糖尿病、高血圧、脂質異常症、高尿酸血症、脳卒中、肥満などがこれに当てはまります。日本人の死亡原因の多くは、生活習慣病によるとされています。
生活習慣病は、脳血管障害を起こしやすく、脳血管性認知症の発症に関係していると考えられています。久山町研究として知られる九州大学による研究調査では、高血圧の人は、正常血圧の人より、脳血管性認知症を発症するリスクが3.4倍高いというデータが出ています。さらに、中年期(50歳以上64歳以下)では、高血圧の人の発症リスクがさらに高いことも明らかになっています。
また、生活習慣により起きる2型糖尿病は、血管に障害を起こすため、脳血管性認知症に関わりがあると考えられていると同時に、アルツハイマー型認知症を発症するリスクも高いと言われています。つまり、2型糖尿病で引き起こされる高インスリン血症の状態が、アルツハイマー型認知症の原因と考えられている、アミロイドβ蛋白を分解できなくすることや、タウ蛋白の変質にも関わっているとされています。これらのことから、糖尿病の人は、血糖値が正常な人の4倍以上、アルツハイマー型認知症の発症率が高くなると考えられています。
ところが、生活習慣病が疑われても、どれもほとんど自覚症状がないため、深刻に受け止めず、放置する人が多いようです。しかし、生活習慣病は確実に進行し、ある日突然、心筋梗塞や脳梗塞などを引き起こし、死に至ることもあるため、「サイレントキラー」と呼ばれています。積極的に治療したり、生活習慣を変えない限り、生活習慣病は良くなりません。
生活習慣病が認知症の発症と深く関わりがあるのであれば、食生活や日常生活、つまり、生活習慣を改善することで、少しでも認知症の発症リスクを抑えることができるはずです。認知症は年寄りだけがなるとか、他の病気とは関係ないとか、誤解に基づく安心感は、予防の妨げにしかなりません。認知症は、 誰がなってもおかしくないのです。自分だけは大丈夫という考えは、今すぐ捨ててください。
ガーリック康子 プロフィール
本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定