2017年5月4日 第18号

 他の病気や症状が原因の場合を除き、完治させる治療法はまだない認知症。それでも、ある程度、症状の進行を遅らせることはできるようになりました。主な治療法には、前回お話した薬物療法の他に、非薬物療法があります。

 非薬物療法には 、生活を維持するために行う「理学療法」、「作業療法」などのリハビリテーション、簡単な計算や音読、書写などを行う「認知リハビリテーション」、思い出を語ることで、記憶を刺激して感情の安定を図る「回想法」、動物とのふれあいを通じて感情の安定を図る「動物介在療法(アニマルセラピー)」の他、「音楽療法」、「美術療法」、「園芸療法」などがあります。このように、非薬物療法にはさまざまな種類があります。どの方法にも共通するのが、脳を活性化し、現時点でできることをできるだけ維持することです。

 非薬物療法の延長上に、 介護する家族の毎日の生活での対応があります。家族の適切な対応により、周辺症状が軽くなったり、症状自体を回避できたりする場合もあります。しかし、認知症の家族と過ごしていると、思うようにならず、声を荒げてしまうこともあるはずです。ついとってしまった行動が、認知症の家族を不安にさせ、症状の悪化や、新しい症状を招くこともあり得ます。

 対応のしかたのポイントとして、まず、認知症の家族のペースに合わせることが考えられます。また、まだ残っている機能を引き出すために、できないことを要求するのではなく、できることをしてもらうこともポイントです。役割や居場所がなくなることによる不安やいらいらを防ぐために、認知症の家族が安らげる場所を確保することも重要です。しかし、介護者にとっては、認知症の家族の生活のペースと自分の生活のペースの間で、かなりのストレスや葛藤があるはずです。また、介護を続けていくうち、認知症が進行し、家族だけでは介護できなくなる時期がきます。例えば、介護疲れやそのストレスから、介護者が体調を崩したり、「介護うつ」になってしまうと、認知症の家族の生活が立ち行かなくなります。積極的に公的サービスや社会資源を利用し、必要であれば、介護施設への入所を選択することで、介護者の心身の負担が軽減します。介護をひとりで抱え込み、心身ともに余裕がなくなれば、虐待、さらには介護殺人につながる可能性さえあるのです。

 問題となる行動や症状は、 脳の障害である認知症が原因で、本人にはどうすることもできないことを理解したうえで、介護を続ける。頭ではわかっていても、毎日同じように実行するのは難しいでしょう。怒られたり否定された時に、認知症の人の心には負の感情しか残りません。その負の感情が、さらに問題行動を招きます。認知症の人が「安心」を得られることで、問題行動と考えられる症状にも変化が期待できます。

 認知症の介護は長丁場です。介護者が途中で息切れしないためにも、 何か、ストレス解消の息抜きをしてください。自分の心と体のケアをしながら介護を続けることが、認知症の家族の症状の安定、心の幸せに繋がります。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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