2019年11月21日 第47号
秋のビクトリア日系人バザー
9月から10月にかけての秋は、当地ビクトリアも夏の喧騒が去り「待ってました!」とばかりにあちらこちらで興味深い行事が重なる。特に教会が絡むイベントは、ボランティアとして骨身を惜しまずに働くリタイアした善男善女のシニアが多いことに驚かされる。
聞けば他のエスニックのグループも多かれ少なかれ同じというが、日系人が中心になって開催される10月末の『秋祭り』も例外ではない。少なくとも1200〜1300人が会場に足を運ぶため会場は大賑わい。中でも各種の日本食や1300個ほどの和菓子は飛ぶように売れ、関係者は一週間ほど前から準備に忙しい日々を送る。
ちなみにこの和菓子作りを日系人たちは「manjyu making」と呼ぶ。初めてこの言葉を聞いた時思わず吹き出しそうになった。だが日本語環境の中で育たなければこの可笑しさは分からないと思い、笑いを我慢した思い出がある。
こうした食べ物以外にも、多くの人々から寄付される日本のクラフト類、食器、アンティークの飾り物、着物などなど、2千個以上はある品々に一個ずつ値段を付けるのも大仕事。だが実はこれが驚くほど売れるのだ。毎年掘り出し物を探しにくるカナダ人の常連客もいて、これだけで有に3千ドル以上の売り上げがある。次々に買っていくカナダ人たちの日本に向ける好意的な態度には驚くが、彼等には「異国情緒」を駆り立てられるからだろうか。
日本大好き
こうしたカナダ人の日本好きは今に始まったことではないが、最近私が係わった当地のアートギャラリー主催の訪日グループの面々も日本をこよなく愛する人たちだ。中にはすでに2、3回訪日している人もいるが、毎回訪問地が異なるためその都度大満足で帰ってくる。
アートギャラリーの主催だけあって、いつも日本ならではの文化を十分に満喫できる訪問地を選ぶ。今秋は福岡から伊万里、有田の窯元を訪ね、瀬戸内海の手島、直島など島全体がアートに力を入れている島々を廻り高野山で締めくくる。
出発前には引率するギャラリーの元学芸員が3回にわたって日本史、古美術、当時の人々の暮らし向きなどを解説し旅心を駆り立てる。そこに今回は私も4時間程の講義を引き受け、現代の日本について解説した。
簡単な日本語での挨拶、ひらがな、カタカナ、 漢字の歴史、日本社会のあり様、例えば少子高齢化の現状、最近になってやっと上場企業の女性役員が1割を超えた事(仏国は42%)、女性国会議員の比率(193カ国中165位)、ゴッチャ混ぜの宗教観(結婚式は教会、お宮参りは神社、お葬式は仏式)、引きこもりの現状、いじめの実情、はたまたデパ地下、100円ストア、ウォッシュレットの普及率…など、あらゆる角度からの日本に言及したのである。
私は日本生れの日本育ちで2年に一回くらいは訪日していても、いざ人前で発表となれば正確な数字や年月を調べる必要があり、資料作成にはかなりの時間を要した。
しかし後日以下のようなメールを貰うと単純にうれしくなってしまう:
Thank you again for the pre-tour information last week. You must have spent hours researching to have amassed all that detail. (中略)I realized after I got home that you had put an immense amount of effort into giving us that comprehensive overview.
困った訪日客
何度も訪日する人々に理由を聞くと、必ず返ってくる答えは、①日本人は親切で優しい ②正直で騙されることなどない ③町が清潔で安全 ④チップがいらない、など。 しかしそうした日本人の美点を逆手に取って、先日はラグビー観戦に来た外国人旅行者の一部が暴徒化し問題になった。車中や公道でスクラムを組む、酔っ払って投げた空き缶がタクシーの屋根に落ち抗議する運転手に謝ることもしない、閉まった店のシャッターに向け背負った仲間を体ごとぶつけてへこませる、など傍若無人な振る舞いをする輩もいたという。
これは一言でいえば「日本人を舐めている」としか言いようがない。どうせ日本人は英語ができないからこんなことをしても大丈夫だろうと「高をくくった態度」の表れなのは火を見るより明らかである。だがもし彼らに真意を聞いてみれば「日本はいい国だ、日本人は素晴らしい、大好きだ」などと言ってすり抜けるに決まっている。 日本人はこれを「観光公害問題」と位置付けているが、来年のオリンピックで同様の光景が繰り広げられないことを切望する。と同時に、日本人もせめて毅然と抗議するくらいの英語力があったらと願わずにいられない。
サンダース宮松敬子氏 プロフィール
フリーランス・ジャーナリスト。カナダ在住40余年。3年前に「芸術文化の中心」である大都会トロントから「文化は自然」のビクトリアに移住。相違に驚いたもののやはり「住めば都」。海からのオゾンを吸いながら、変わらずに物書き業にいそしんでいる。*「V島 見たり聴いたり」は月1回の連載です。(編集部)