2018年7月19日 第29号

ビクトリアのゲイパレード

 ビクトリアの今夏のゲイパレードは、7月の第二日曜日に行われた。気温は21℃で快晴、海からのそよ風も爽やかでまたとないパレード日和であった。

 毎年一番の焦点となるスポットは、州議事堂前の一角である。新聞社や実況放送をするラジオ局などの報道陣が集まっているため、パレードの参加者たちはこの辺りで一段と派手なジェスチャーと奇声を上げ周囲を湧かせる。

 とは言え、北米最大とも言われるトロントのゲイパレードを何度も取材してきた筆者には、やはり当地のはこじんまりとしており、度肝を抜かれるような仮装をする人もなく、何となく可愛らしい域を出ていないように見受けられる。

 それにしても年一度のこの祭典は今でこそ市民権を得ているし、カナダは世界で3番目に同性婚を認めた国であるが、ゲイであることが知られただけで投獄された半世紀前(1967年当時)とは何という違いだろう。

 だがそれでは今カナダのゲイたちは、全く問題なく日常生活を送っているかと言えば「NO」である。それは居住する場所、宗教上の理由、単に毛嫌いなど、理由はいろいろあるが嫌悪感を露にする人も少なくないのが現状である。

 かく言う私も2005年に右の写真の著書を出版するまで、例えば彼らが求めていた「ゲイの権利」等というものにはまるっきり無知であった。だが未知のものを知りたいという思いから、書物を読み、トロントはもとより、NYにも又世界で初めて同性婚を承認したオランダにも行き無数の人々をインタビューした。

 その経過をまとめたのがこの一冊である。これは私にとって深くて幅の広い学びの経験であったが、知れば知るほどこの程度の理解でゲイだヘテロだを語るのは口幅ったいと思うに至ったのも事実であった。

 どの人もインタビューに対し心の襞を一枚一枚剥がすように思いを語ってくれたのだが、その中には私の義弟も含まれていた。相手の立場を細かく配慮する思いやりの深い彼も、また長い心の旅路の末にカミングアウトした一人であった。一度は結婚し子供も3人いる中で、やはり自分の心に正直にと離婚に至ったのである。

 彼は、キリスト教の中ではいち早くゲイを承認したUnited Church(合同教会)の牧師であったが、先日リタイアして、パートナーと共にシニアライフに入った。自身が痛みを経験しているせいか、その優しい人柄が信者たちから絶大な信頼を得ていたが、子供3人と孫3人は今の彼にはかけがえのない喜びと言う。

一橋大の学生の自殺

 さて日本はと見ると、徐々にではあるが、この数年間に事態が変化していることが分かる。中でも「性同一性障害」に対する人々の肝要さと認識は大きく、先日はお茶の水女子大が20年度からトランスジェンダーの学生を受け入れることを決定した。

 だが一方、やはり最近だが「ゲイだとばらされ転落死」という記事がネットに載った。「同性愛者であること」を、同級生に同意なく口外され苦しんでいた一橋大の法科大学院生が、2015年8月、学校から飛び降り自殺した事件の引き続きを報じたものだ。すでに3年前のことだが、自殺した学生(当時25)の遺族、口外した男性、大学も絡む複雑な事件として裁判沙汰になったのである。詳細はネットを見れば分かるが、ゲイであるために消えた一つの命。親の思いは如何ばかりか、考えるほどに心が痛む。

 

 

 

 


サンダース宮松敬子氏 プロフィール
フリーランス・ジャーナリスト。カナダ在住40余年。3年前に「芸術文化の中心」である大都会トロントから「文化は自然」のビクトリアに移住。相違に驚いたもののやはり「住めば都」。海からのオゾンを吸いながら、変わらずに物書き業にいそしんでいる。*「V島 見たり聴いたり」は月1回の連載です。(編集部)

 

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