2019年6月27日 第26号
日本語教師養成講座の生徒で、現在日本で日本語教師をしている卒業生から最近こんなメールが届いた。「今年は令和元年、ゴールデンウィークが10連休になり、いろいろ楽しみました。車で故郷にも帰りました。そして休み明けの最初の授業で、帰省ラッシュに巻き込まれて大変でした、と生徒に話したら、意味は何となく分かりますが、どうして『省』という漢字を使うんですか、『省』に故郷という意味がありますか…という質問を受けてとても困っちゃいました」こんな内容である。
我々日本人はこんなこと考えたことも、気にしたこともない。でも確かに学習者は最初に「反省」や「省略」を学ぶので、「帰省」の「省」がすごく気になったのであろう。日本語教師としてはなかなか厄介な質問。どのように説明したらいいか、いろいろ整理してみた。
この「省」は確かにいろいろ使われている。「反省」や「省略」はもちろん、「内省」や「冠省」そして「帰省」など、さらに「大蔵省」や中国の「山東省」などにも。うーん、今までほとんど意識したことなどなかったので、思わず日本語辞典を引いてみた。音読みとして「ショウ」と「セイ」があり、訓読みは「かえり(みる)」と「はぶ(く)」である。確かに。なので「反省」や「省略」は容易に理解できるし、説明も簡単である。
そしてもう一つ、親を省みること、すなわち親の安否を確かめるという意味があり、これが「帰省」である。うーん、習ったのであろうがあまり覚えておらず、日本語教師として恥ずかしい限り。それゆえ「帰省」とは親が無事かどうか訪ねるのが本来の意味であり、親がすでに亡くなっている場合は「帰省」は使わなかったとのこと。なるほど。でも現在では意味が広がって、単に故郷に帰ることにも使われている。正に言葉は時代とともに、である。
さらに「省」には中央政府の役所の意味や中国での地方行政区画の意味もちゃんと辞書に載っており「大蔵省」や「山東省」なども納得である。これも学んだような気もするが…。
こんなことを調べていたら、本屋の老舗である「三省堂」が頭に浮かんだ。なぜ店の名前にこの「省」が入っているのか、ちょっと気になって調べてみた。ナント出典は中国の古典「論語」とのこと。「不忠」「不信」「不習」この三つを何回も省みる、すなわち「三省」する。うーん、なるほど、とても含蓄のあるすごい名前。恐れ入谷の鬼子母神である。
この「帰省」の漢字をバンクーバーの上級者に説明したら、大いに納得してくれた。そして生徒曰く、だから「省」という漢字には「目」があるんですね。目でいろいろよく見ることが必要なんですね。うーん、さすが上級者、目の付けどころが違うね。これまた恐れ入谷である。
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