2017年1月19日 第3号

 芸術論なるものを書こうとすれば、趣味の範囲でしかない。絵画を見るために、時折、美術館にも行く。音楽を聴くのも好きで、時折コンサートにも行くが、素人なので、僕の芸術論なんていうものは、ただ単なる感想にすぎないのである。

 しかし、数年前から、演劇に偶然にかかわるようになり、その面白さが理解できるようになると、見聞も広がり、なまいきになってくるからよくないのである。

 司馬さんの本の一節から、「『人間の才能は多様だ』と継之助はいった。『小子にむいている、という男もあれば、大将にしかなれぬ、という男もある』『どちらが、幸福でしょう』『小子の才だな』と継之助は言った。藩組織の片すみでこつこつと飽きもせずに小さな事務をとってゆく、そういう小器量の男に生まれついた者は幸福であるという。自分の一生に疑いももたず、危険のふちにも近づけもせず、ただ分を守り妻子を愛し、それなりに生涯をすごす者。『一隅を照らすもの、これ国宝』。」

 才能というのは、何かをなそうという気負いを捨てた時に、新しい自分が見えてくるということであろうか?

 アメリカにいるイチロー選手の最近の言葉に「人と違ったことをしようと思うことより、毎日、練習をして自分をつみあげることが最後に大きなものになる」というふうな話がある。画家池田学の世界も自分を信じ、こつこつカラーインクペンで描き続けたのであろう。「明日世界が終わるとしても、私はリンゴをうえつづける」という言葉の如く、描きつづける彼のドキュメントを年の瀬に見たときに、ぼくはどこかで彼の名前を見た記憶が蘇り、いそいで以前読んだ本、落合栄一郎著「病む現代文明を超えて持続可能な文明」を捜しだして、表紙の絵を見ると、その裏側に池田学とあり、タイトルが「メルトダウン 2013年」とある。

 ウエストバンクーバー美術館で撮影された「メルトダウン」という表紙の絵は、122センチメートル×122センチメートルサイズで、結構大きな絵のようで、ペンで精密に書かれてあるが、いささか暗い感じの印象で、僕自身は巨大な産業(現代文明)がある巨大な氷の塊がすべり落ちていくような、暗く、不気味な感じがして、美という感じではなかった。ただそれだけのことであるが、その池田学がテレビに出るという。ぜひ見なければなるまいと思った。

 この本の表紙は、小さくてグロテスクな印象しかなく残念であるが、大きな本物を見れば別の印象があるかもしれない。

 カラーインクペイントを用いて立体感のある超細密画をペンで描いている池田氏が、アメリカにあるチェゼン美術館で幅4メートルの大作「誕生」に挑戦をして、完成するまでの記録が今回のテレビのおもな内容であった。

 2011年の東日本大震災で、津波の大きな被害にあった街や漁村を見て、彼は「死」ということを意識する。

 今回の大作「誕生」は、やわらかな色と光があり、好感がもてた。それにしても、ペン一筋で数年かけて書き続けたこの大作に西洋画の点描写の技法とピカソのキュビスムが重なる。ピカソのキュビスムは墨絵と通じるところがあり、立体的にすることにより、平面で表現できない自分の感情とか「心」を表現したのでは、と僕は思う。彼のペンによる細密画も、また、似て非なるものかもしれないが、益々のご活躍を祈りたいものである。

 2016年の年の瀬、雨の予報が昼から本格的な雪となる日に、本紙の読者であられるバーナビー在住の85歳になる伊賀さん宅に、友を連れ立ってお話を伺いに出かける。会話は、昼過ぎの1時半から始まり、途中で夕食を御馳走になり、9時ごろまで話は続いた。太平洋戦争の話から、故郷愛媛県の話、そして本職であられた小麦についての話などであったが、最後に「このまま温暖化が進めば、アメリカで小麦はつくれなくなるかもしれない」というお話は印象的であった。さらにアラスカでは凍土が、ここ数年夏の暑さで溶け出しており、メタンガスが地下から放出され始めているという。このことは、今までになかったことで、このまま進めば、益々、地球の温暖化を推し進めるのではといわれることは、画家池田学の絵「メルトダウン」に通じるように思われる。

 超ホモサピエンスといわれる現代人は、いよいよその欲望をコントロールすることを考えねばならない時かもしれない(?)。でなければ、人工知能を持った人間型ロボットアンドロイドに未来を託すことになるのかもしれない。

 


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