2019年9月12日 第37号

 八月も半ばを過ぎると日照時間も日増しに短くなり、バンクーバーでは晩夏と言えるかもしれない。そんなある日、僕は夏の恒例行事でもあるPNE(一種の博覧会)へでかけた。スーパードッグショーやいろんな展示を見たり、おいしいフードを食べるのも楽しみの一つであるが、農業パビリオンを見るのも楽しみの一つである。

 BC州の各地から集められた4Hクラブの農業青少年に育てられた牛や馬、豚、羊、鶏、うさぎなどのいろんな家畜や、果物などの最後の品評会であり、優秀なものにはメダルが贈られる。そういう農業パビリオンの中で、会場の隅で黙々と掃除をしたり、牛や馬などの家畜の世話をしている少年少女の姿を見れば、カナダの農業にも、まだ明るい未来があるように思えることは、僕自身は嬉しくもあり、頼もしく感じたのである。

 それは、50年前の自分の姿であったのかもしれない。愛知県の農業経営者を育てるために設立された農業研修所(現在、農業経営大学校)に在籍していた。全寮制で、愛知県の各地から、それぞれが自分達の選考部門を実習と勉学に励んだ。その昔は、満州へ開拓に行く全国からの青年の訓練が行なわれた所でもあった。

 僕達は、新しい愛知の農業を担う希望の青年達であったのである。卒業生には町長や愛知JA(農協)副理事長になり頑張った者もいる。そのJA副理事になったF君は言う「卒業生の半分以上は、今でも農業を続けているけど、すごいのはその子供達が跡継ぎ、農業をつづけているのだわ。まあ、愛知の場合、近くに巨大な産業があり、農産物の市場があったことが良かったかもしれないなあ」。このF君と花卉園芸を専攻していて、卒業後は市の植物園で洋ランの栽培の仕事をしていたKさんの三人が、昼のNHKテレビ番組に出演したことがある。出演記念にパーカーのボールペンとフランス料理の昼食をご馳走になったのは懐かしい思い出であるが、これは当時、NHKの農事通信員をしておられた児玉先生の力添えが大きかったと思われる。

 昨今、地方へ行けば農村は高齢化となり、その後継者がいないことが悩みの種であり、一つの問題点であったが、最近はモダンとなってきた日本農業にも、後継者の若い人達が就農していることは嬉しいことである。

 今回、農業パビリオンの外に展示されてある日本製の大型トラクターを見た時、「50年の歳月が過ぎて、ついに日本も、アメリカの農業に負けないほどの大きなトラクターを良く作ったものだ」と妙に感激した。

 僕がカナダに来た頃は、日本車がアメリカに輸出されて人気が出始めた頃でもあるが、あの果てしない平原を日本小型トラック一台が走っているぐらいなものであった。日本でも小型耕運機の時代で、小型トラクターもわずかであったが、農地が区画整理されて、長方形の田んぼや畑になると日本の農業も機械化が進むのである。今頃では、人工衛星により自動運転の農耕を研究してきたのが、このオレンジ色の大型トラクターを作ったK社なのである。やがて、日本製の大型トラクターがアメリカの大地を耕す日も遠くないように思えるのである。  

 レタスなどの野菜工場が、日本にできている時代、日本の農業も大きく変化しているという気がするのである。そういう新しい時代の中に生きている自分を、この赤っぽいオレンジ色の日本製の大型トラクターを見ながら感じたことである。

 経済の面でも社会は大きく変化しようとしているのかもしれない。小生からみれば、行動する知の巨人とも言うべき西部邁氏の自殺はそういう時代の変化の中の出来事であったと見ることもできるかもしれない。

 西部風に言えば、「諸君!なにを憂えることがあるものか、時代はコッコッと新しいモダニズムへと変化していることを我々は自覚をし、己自身が変化せねばならないのであります」、「日本が原子力爆弾、つまり原爆を持つ持たないは別としても、原子力発電は、資源の保護のために続けるべきものなのです。…原子力発電の冷却水は、シベリアとかグリーンランドなどの凍土の中に中和の化学処理をして冷凍して埋め込むという方法も考えられるべきなのです」という元気な西部節を聞いてみたい気がするのである。

 いろんなこと想像させられる晩夏の一日でした。

 

 


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