2018年1月18日 第3号

 はじめて伊賀正亮(まさあき)氏にお会いしたのは、一昨年の12月の末であった。その日は朝から雪模様であったが、夕方には雨になるという予報であった。それならば、車の運転も心配はないと思い、昼過ぎに友二人と連れだって、バーナビー市にある伊賀さんのお宅へ伺う。

 80歳半ばを過ぎられる伊賀さんは少し足が不自由なので、あまり外には出られないというお話であるが、お身体は至極元気そうであられた。若い頃(1966年頃)にカナダに来られて、大学で農業経済を勉強をされ、卒業後は、カナダの小麦を取り扱う会社で働かれたという。

 過去の太平洋戦争のころは、出生地の愛媛県で過ごされて、米国による広島原爆投下時のきのこ雲を地元松山中学校から目撃されている。「その時、だれともなく北の空に怪しげな雲(きのこ雲)がそびえたっているのに気が付いた。それは一目で異様な恐怖感を感じさせた。いつも見る夏の空に広がる入道雲とも違ったおそろしく巨大な雲であり、普通の入道雲の高さの何倍もあり、特に異様なのは、その色合いであった。黒紫、オレンジ色、黄色等が複雑に混じりあった奇怪な様相であった。」と彼のエッセイにある。その恐ろしいほど異様な色合いは、平凡につつましく暮らしてきた広島市民の叫びであり、怨念の色であり、阿鼻叫喚の叫び声かもしれない。

 伊賀さんは原爆による被爆はなかったものの、その頃のことをよく記憶されている。そんな戦争体験の話などが、夕食をご馳走になり夜の9時頃まで続くのである。英語の知識も多く、楽しく会話はつづいた。降る雪は、雨にもならず本格的な雪となるが、話はまだまだ続きそうであった。

 後に、伊賀さんから『先進国の農業、食料問題と農業政策』と題した論文集(350ページ)をいただく。以下はその一部「カナダに於ける初期の農業移民と定住」からである。それによれば、フランスの商人が魚や毛皮の交易のために最初にカナダ東部ケベックに定住したのは1608年頃だという。この頃(17世紀半ば)イギリスのテムズ河やオランダの運河が冬の間、完全に凍結をしたといわれる。いわゆる小氷河期といわれるものである。夏は冷害のためか作物も十分収穫ができなかったのかもしれない。自然と人々は暖かな南へ交易を求めて航海にでる、大航海の時代の始まりであったのではとも想像できる。

 日本の種子島に漂着したポルトガル船から鉄砲が伝来したのは1543年の話である。話は飛ぶが、最近、日本でも大きなイベントとなっているハロウィンの原型も寒いこの頃(中世)の東ヨーロッパの話ではないかと僕は思う。森に住む民が、収穫の秋が過ぎると冬の食料を求めて里の村に現れる。一種の盗賊なような者であったのかもしれない。村人は争いをするよりも先に食料を差し出して帰ってもらう。また、村になにかあれば、森の民が村人を守るという暗黙の関係性があったのではないかと思える。10月最後の日はハロウィンの日、いろいろなコスチュームをつけて仮装をして家々を回り、お菓子などをもらう子供達は、中世の森に住む魔女のようなものかもしれない、お菓子をあげる各家の人は里の村の人かもしれない? この話は中世のドイツ史の中にあったような記憶がする。

 生きるために、人々は荒れる魔の海を乗り越えて新天地アメリカ大陸にやって来たのではあるまいか? アメリカ、バージニア植民地が開かれたのも1607年頃で、ほぼカナダと同じころかと思われる。カナダ、ケベックに定住した人々は、1670年代までにはアメリカのミシシッピ河まで達したという。同じ頃、イギリス商社ハドソンベイが同様の貿易を求めてカナダに入ってくるのである。1663年頃、ニューフランスはほぼ1万人前後であったが、1760年までには全人口は約6万に達していたという。

 


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