2018年9月20日 第38号

 9月に入って、急に涼しくなり、また日の長さもどんどん短くなってきました。閉店までの夜のシフトを終えた日は、真っ暗の帰り道にクマが出ないか怯えながら歩いている今日この頃です。さて今回から、「薬の副作用」について複数回に分けてお話したいと思います。

 飲み薬の多くは、食道を通過し、胃や小腸で溶けて「吸収」されます。ここで吸収というのは、小腸から血中に移行し、全身を巡る循環経路に乗るという意味です。そして血流にのって、薬が全身に行き渡ることを、薬の「分布」と呼びます。

 体内を循環する薬は、様々な臓器を通過しますが、肝臓もその一つ。元来、肝臓には体内に入った毒物を分解し、毒のないものに変える働きがありますから、薬もその分解の対象となります。つまり、薬は肝臓を通るたびに、その化学的性質が変化し、徐々に薬としての作用を失っていきます。このプロセスを「代謝」と呼びます。

 そして、代謝を受けた薬は、最終的には尿や便などと一緒に体外へと出て行くことになり、これを「排泄」と呼びます。つまり、口から体内に入った飲み薬の一生は、吸収→分布→代謝→排泄という4つのステージに分けることができます。

 ただ、同じ飲み薬を飲んだとしても、年齢によって、飲み薬が排泄まで辿りつくスピードは変わってきます。年をとると、体全体の水分量が低下し、体脂肪の割合が増えます。すると、脂肪に馴染みやすい性質を持つ薬は高齢者の体内に分布しやすくなります。次に、各臓器の働きは加齢に伴い低下し、特に肝臓で薬を代謝する力、腎臓から薬を排泄する力が弱くなっていきます。つまり、高齢者においては、体内に薬を保持している時間は、若者に比べて長くなります。

 高いお金を払って購入した薬を、少しでも長く体の中にキープできるといえば、ちょっとお得な感じもしますが、決していいことばかりではありません。薬が代謝されず、排泄も遅いというのは、言い方を変えれば、高齢者においては薬の効き目が強く出やすく、副作用の可能性も上がるということです。

 基本的には、どんな薬にも主作用(main effect)と副作用(side effect)があります。ほとんどの薬について、程度の差はあれど「副作用=危ないもの」であるのは事実で、害のある副作用は、特に「有害作用(adverse effect)」と呼ばれます。

 薬の有害作用が起こる原因として、薬の性質、使用方法、服用している人の体質、そして病状が挙げられますが、単一の原因であることもあれば、複数の原因が重なっていることもあります。  高齢者の場合、服用している薬の数が多くなり、有害作用の起こる確率がより高くなります。更に、薬の数が増えると、今度は薬と薬の「相互作用」が起きやすくなります。薬同士の相互作用にはいくつかのパターンがありますが、その中でも、片方、または両方の薬の作用が強く出ることで、副作用が生じやすくなる場合がありますから、注意が必要です。

 一言に副作用といっても、必ずしも危険なものばかりではありません。時には副作用を逆手にとって、主作用として販売されている薬もあり、抗ヒスタミン薬のBenadryl(成分名:diphenhydramine)はその典型的な例です。Benadrylは、くしゃみや鼻水といった季節性アレルギー症状の緩和に用いられる市販薬ですが、この薬には眠気を引き起こすという副作用があります。そこで、同じ成分でありながら、名前とパッケージを変えて睡眠補助薬として販売されているのが、NytolやUnisom、Sleep-ezeといった商品です。また、狭心症の治療薬として血管を広げる薬を研究していたら、ペニスの勃起が改善したことから、勃起不全治療薬バイアグラが生まれたという話は有名です。だからと言って、バイアグラのような薬を飲みすぎると、血管が広がりすぎて心不全を起こして命を落としてしまいますから、やはり服用の際には細心の注意が必要です。

 薬は「諸刃の剣」と喩えられることがあるように、これは薬が有益な治療効果を発揮する一方で、有害作用を併せ持つことによります。また、薬をカタカナで書くと「クスリ」ですが、これを反対から読むと「リスク=Risk」と読めるように、クスリはいつも有害作用のリスクと背中合わせにできています。では、副作用にはどのような種類があるのか、そしてこれをどうすれば防ぐことができるのか、次回の記事で探ってみます。

 


佐藤厚

新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。
2008年よりLondon Drugs (Gibsons)勤務。
2014年、旅行医学の国際認定(CTH)を取得し、現在薬局内でトラベルクリニックを担当。
2016年、認定糖尿病指導士(CDE)。

 

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