2018年5月17日 第20号

 5月に入り、かなり夏らしい日が増えてきましたね。最近は、私も子供も半袖一枚で外に出かけるようになりました。さて今日は、薬と保険についての最終回になりますが、どうしても皆様に伝えておきたい「薬の量とタイミング」についてのお話です。

 現在日本では、服用されることなく家に飲み残した薬(残薬)が問題視され、国と地域の薬剤師が一体となり、残薬を解消するよう様々な取り組みがなされています。カナダでは、保険負担の量とタイミングを調節することで、残薬発生の可能性を抑えています。

 

1、薬の量について

 「調剤手数料を節約するために、一年分の薬をまとめて購入したいのですが?」という患者さんは意外と多いものです。医師も一年分のリフィルを処方したとなれば、尚更のこと。しかし、公的保険であるBC Pharmacareでは、最大保険負担日数が決められているため、一年分の薬をまとめて買う方が、むしろ高くなる場合が多いのです。

 通常、慢性疾患の治療薬では、最大日数が100日までと決まっており、超過分については自己負担となります。保険負担発生前、つまり免責金額に向けて支払いをしている段階も100日分以上の薬を一度に購入すると、超過分については免責額に向けてカウントされません。薬によっては、保険負担の最大日数が30日のものもあり、アルツハイマー病の治療薬(ドネペジル等)や、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬(ロラゼパムやオキサゼパム、クロナゼパムなど)が、これに該当します。また、緩和ケアプラン(Palliative care plan)でも30日の負担日数制限があります。海外に長期滞在するなどの理由で、止むを得ず制限日数分以上の薬が必要となる場合、差額を払って必要日数分の薬を購入することになります。

   民間保険にも日数制限が設けられていることがほとんどです。多くの場合、最大100日ですが、民間保険のプランによっては事前申請により最大支払い日数を増やせることがあります。冬季を南国で過ごす方、日本に長期滞在する必要のある方は、それぞれの民間保険のカスタマーサービスに問い合わせをしてみて下さい。

 

2、薬を注文するタイミングについて

 「リフィルが少し早いようですけど、お薬はどのように飲まれていますか?」と薬剤師に聞かれたことはありませんか?リフィルが予定よりも早くオーダーされた場合、薬剤師としては、患者さんの健康状態に変化がないか、また薬の飲み過ぎによる副作用が生じていないかといった項目をチェックします。またこれと同時に、お薬代がPharmacareではカバーされないことを説明します。Pharmacareによる保険負担は、薬がなくなる14日前から支払いが認められるのが基本で、それよりも早い場合には、正当な理由が必要になります。

 

 「日本に一時滞在中に薬がなくならないように、14日以上早くリフィルが必要なんですが...」という方、ご心配なく。それは正当な理由の一つです。薬局に用意されている「Travel Declaration Form」に患者さんがサインをして、薬剤師がコンピューターにその旨を入力することで、Pharmacareの保険負担が有効になります。

 一方、民間保険ではプランによって、リフィルが「早過ぎる」の定義が異なり、処方量に対するパーセンテージで定められていることが多いです。Pharmacareの「14日前」よりもタイトなプランもある一方で、非常に寛容なプランもたまに見かけます。薬剤師は、処方せんをコンピューター処理する際、Pharmacareや民間保険会社に対してオンライン請求するので、保険負担の有無とその理由がすぐに分かります。薬代と保険負担について疑問がある場合には、是非薬剤師にお尋ねください。

 最後に宣伝です。7月6日(金曜日)に日系センターで開催される、日本人プレママセミナー「妊娠と薬とエトセトラ」(主催JAMSNET CANADA)で、「妊娠と薬の微妙な関係 〜安全な薬の選び方〜」というタイトルでお話しします。申し込み方法はオンラインで、https://www.eventbrite.ca/ → 「JAMSNET」を検索 → 「プレママセミナー」と選択し、チケットを購入してください。参加は「無料」となっております。妊婦の方や妊婦かもしれない方、そして今後妊娠を検討中の方は、お誘い合わせの上、是非ご参加ください。

 


佐藤厚

新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。
2008年よりLondon Drugs (Gibsons)勤務。
2014年、旅行医学の国際認定(CTH)を取得し、現在薬局内でトラベルクリニックを担当。
2016年、認定糖尿病指導士(CDE)。

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。