2018年9月27日 第39号

「私は誰?」

 いったい自分は何者だろう?

 昭和初期に活躍した作家、坂口安吾は『私は誰?』というエッセイのなかで、自分のアイデンティティと、小説家としてのあり方を論及しています。

 いったん自分のアイデンティティに目を向けると、自分を理解するということが結構ひと苦労だったりするものです。

 今月は愛媛にお住まいのビジネス・コンサルタントのお仕事をしているふわりとした妖精のような印象のエミリさんが創作された物語、『宝物の記憶』をご紹介します。小さい頃から、エミリさんには、アブラキーダという空想の存在がいて、いつもそのアブラキーダとお話をしていたといいます。さあ、アブラキーダは一体誰だったのか!?そこから発想した、エミリさんのファンタジーの世界をお楽しみください。

 

 私の名前はアブラキーダ。妖精の女の子。 髪はふんわり腰まであって、背中に七色の羽がキラキラしている。ピンクに、水色、黄色のワンピースがひらひら揺れている。

 妖精の国に住んでいるけど、私は人間の住む、ある村が好き。そこは下池、中池、上池の三つ池が段々にある山の中。下池と中池の間にあるれんげ畑が、私のお気に入りの場所。なぜならそこにはあの女の子がいるから。

 私が探している、友だちになりたい人間の女の子。私が住む世界にも同い年の妖精はたくさんいるわ。でも誰とも友達にはなれないの。

 ママは、わたしがワガママだからっていうわ。誰も私を誘ってくれない。誰も私のそばにいようとしない。 だから私、冒険したくて、飛び出したくて、私のことを分かってくれる子がどこかにいるんじゃないかって、それで、時々人間の世界にくるの。今日もママに内緒でいつものれんげ畑にやってきた。

 あのれんげ畑にあの子がいたらいいなって、会えたらいいなって思っていたら、その子がいたの。いつものようにその子は一人で遊んでる。今日こそは話しかけようと思って、羽をつけたまま透き通った体から人間と同じ姿になって彼女に声をかけたの。

 「何しているの?」 

 するとその女の子はこう答えた。

 「れんげの花束をつくってるの」

  私たちは歌を歌いながられんげやシロツメクサを摘んでは、かわいいね!、きれいだね!ってスキップしながら夢中になった。ただ、ただ、私たちは笑っていたわ。とっても楽しいの。しばらくすると彼女が私に聞いた。

 「なんて名前?」

 「アブラキーダよ!」

 「あなたのお名前は?」

 「ペルシャ!」

 私たちはお互いに名前を呼び合いながら、手をつないで、れんげ畑を走り、スキップして、遊んだ。日が暮れてきて私たちはお別れすることになった。

 「またね。バイバイ」

 それだけ言って別れたアブラキーダとペルシャ。妖精の世界に戻ったアブラキーダはとっても優しくなった。たくさんの妖精たちと友達になった。ママのお手伝いもよくするようになった。

 アブラキーダとペルシャはあれから一度も会っていない。一度。たった一度きりの出会いで、生まれ変われるほど満たされた時間だった。次に会う約束はしていない。二人は、別々の世界を生きている。あのれんげ畑で遊んだいつかの親友がいることを、どこか懐かしい記憶として共に生きている。 一度きりの、一瞬の時間。ずっと、ずっと、ずっと先に二人はまた再会する日があるのかもしれない。あの時と同じように、離れた時間なんてなかったかのように、会って瞬く間に、 微笑みの時間を共にするのだろう。そして、思い出すのかもしれない、まるで宝箱を開けるように。

 

  自分の中に自分の理解者を見いだす。エミリさんは自分の中のもう一人の自分を通して、明確な自分の姿を浮かび上がらせることができました。そして、永遠の問いである「私は誰?」という問いの答えが埋まったのです。

 シングル・マザーのエミリさんはこの物語を作られたあと、7歳の息子さんとバックパックで旅に出そうです。小さい頃から心に描いていた、自分と双子のようなアブラキーダと名付けていた想像上の友達を、こうして形にしたことで、心の芯のところに何かがやってきて広々したところに向かいたくなった、と話してくれました。

 ノベル・セラピーであなたの中のアブラキーダと遊んでみてください。そして、訪れる限りない可能性や希望をぜひ手にしてみてください!

 


Ojha Emu Goto ノベルセラピスト

 日本で雑誌,広告制作者として活躍していたが、98 年にカナダに移民。光の色波動を用いるZenith Omega Healing( ゼニス・オメガ・ヒーリング)のマスターティーチャーヒーラー。月刊ウェブ・マガジン “Cradle Our Sprit! ” www.ojha-angel-vancouver.net / 編集長。しらゆきのゆめ出版代表。

 著書に「アカシック・レコードの扉を開ける〜光の鍵」明窓出版(2010 年)。 ノベル・セラピーのテキストを兼ねた小説集「しらゆきのゆめ」を昨年末出版した。同時に 『しらゆきのゆめ』出版を設立し、バンクーバーの日系社会のみなさまの自費出版をお手伝いさせていただいている。

 今春3月に日本縦断ノベル・セラピーワークショップツアーを行い、現在ノベル・セラピーで誕生した物語を Pod Cast での世界に向けたインターネット配信を準備中。ノベル・セラピーワークショップは随時開催している。自費出版及ノベル・セラピーのお問い合わせはThis email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it. まで。 

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。