2018年4月5日 第14号

 病気になったら医者。精密検査は病院やクリニック。では、介護が必要になったらどこへ行きますか?

 家族や親しい人、または自分が認知症ではないかと心配になった時、一番困るのが相談先ではないでしょうか。近年、認知症への正しい理解は深まってきているようですが、未だに誤解や偏見は根強く、誰彼構わず相談できないのが現状です。かといって、相談窓口はどこなのかが広く一般に知られていないため、かかりつけの医者に行く以外に、相談先がわかりません。しかし、その先生にある程度の認知症の知識がないと、特に高齢者の場合、認知症が疑われる症状でも、「もう年だから」と片付けられ、正しい診断が受けられないというようなことも起きてきます。診断が遅れれば、MCI(軽度認知障害)への移行を食い止められる時期や、認知症の進行を遅らせる薬を飲み始める時期を逃してしまいます。

 日本の場合、相談先として、市区町村などの自治体単位で「地域包括支援センター」という行政機関があります。高齢者の暮らしを地域でサポートするための拠点として、介護だけでなく、福祉、健康、医療などのさまざまな分野から、総合的に高齢者とその家族を支える機関です。センターには、保健師もしくは看護師、社会福祉士、主任ケアマネージャーが配置されており、地域住民の介護予防や日々の暮らしでの悩みの相談に乗ってくれ、適切な機関と連携して、困ったことを解決する手助けをしてくれます。例えば、専門医やヘルパーの照会や、介護ベッドや車椅子のレンタル方法などの相談に応じてくれるだけでなく、介護が必要になる前からの相談にも応じてくれます。また、「地域包括支援センター」は、市区町村の窓口と同じく、介護が必要になった時の「介護保険」の利用に必要な「要介護認定」の申請機関でもあります。

 因みに、「介護保険」は、原則として40歳以上の全国民が加入する保険制度です。介護が必要になると適用される保険で、年金のように給付金を受け取るものではありません。また、介護保険は、介護が必要になった時点で自動的に利用できるようになるものではなく、「要介護認定」を受け、要介護度、要支援度が判定されてから使えるようになります。 要介護、要支援の区分により、利用できるサービスの限度額が異なり、利用者の自己負担割合は、所得金額により異なります。

 いろいろな事が相談できる 「地域包括支援センター」ですが、これに当たる行政機関は、カナダにはありません。代わりに、 高齢者を支援する団体や、病気に特化された支援団体などの各種の民間の非営利団体が、その役割を果たしています。しかし、いずれも、高齢者の生活全般を地域単位でサポートすることを専門とする団体ではありません。認知症に関しては、 非営利法人団体の「アルツハイマー協会」が、その相談窓口の役割を果たしています。カナダ全体を統括するオフィスの他に、各州にオフィスを構えています。BC州の場合は、大きく五つの地域に分かれており、さらに細分化された地域単位で、教育センターが設置されています。認知症に関する情報の他に、地域で行われる行事や数多くのワークショップ、サポートグループ、運動と社交の場としてのプログラムなどについて、様々な情報を提供しています。残念ながら、ごく一部を除き、すべての情報は英語のため、 英語を母国語としない介護者にとっては敷居が高いのは否めません。

 どんな理由で介護をすることになっても、 たった一人でその役割を担うことはできません。介護者が孤立することにより、取り返しのつかない悲劇に繋がることもあります。しかし、介護が必ず孤立に結びつくわけではなく、介護が縁で、新しい人間関係やコミュニティーが生まれる可能性もあります。同じような環境にある話し相手や、30分だけでもただ話を聞いてくれる人がいる。それだけでも、介護者の一日が大きく変わることがあるのです。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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