2018年3月15日 第11号

 前回は、オランダでの認知症ケアの状況についてお話しました。オランダでは、「認知症の人が、住み慣れた家で穏やかに暮らせる環境を保つこと」を狙いに、認知症ケアの国家政策が実践されています。その結果、認知症の人の約8割が自宅で暮らしているうえ、そのうちの半数が、一人暮らしを続けているといいます。医療、介護、社会生活支援に関する様々な制度やサービスがあるうえ、介護施設にも特徴的なものがあります。そのひとつに、アムステルダム郊外にある、「ホグウェイ」という認知症の人のための介護施設があります。

 この施設の入居者はすべてが認知症ですが、従来型の施設とは異なり、ここでは、認知症の人が違和感なく「日常生活」に近い生活を送れるように、敷地内にはカフェやレストラン、スーパーマーケット、映画館など、生活に必要な設備のほとんどが揃っています。買い物などでの支払いは、事前に渡されたカードで決済するため、現金を扱うことはありません。入居している人たちは、建物の敷地の外に出ることはできませんが、敷地内は自由に歩き回ることができ、通常の社会環境と変わらない生活を送ることできます。また、これらの店舗や施設で働く「店員」は、全員この施設のスタッフである介護士ですから、認知症の人が関わるトラブルが起きにくい環境にあります。

 入居者は、6名から7名のユニットに分かれ、ユニット毎に各居住棟で1名ないし2名の介護士と一緒に暮らします。居住棟には、入居者の個室の他に、リビングやキッチンなどの共有スペースがあります。入居費用には、居室代、食費、医療費、介護費用が含まれ、入居者の資産状況により、一部自己負担になる場合もあるようですが、基本的に入居費用は社会保証制度で賄われます。

 先日、このような施設が、バンクーバー近郊のラングレーにできるという記事が、地元の日刊新聞、バンクーバー・サン紙に掲載されました。「ザ・ビレッジ」と命名されたこの施設は、2019年の4月には完成予定で、カナダ初の認知症の人向けのコミュニティー、通称「認知症村」になります。前述したオランダの「ホグウェイ」をモデルとし、コテージ式の居住棟6棟から成り、うち3棟は、夫婦が一緒に住めるようにデザインされ、残りの3棟には、短期入所ができるゲストルームもできるようです。許容入居者数は78名で、72名の専門スタッフが入居者のケアを行います。敷地内には、菜園や動物のいる納屋、コミュニティー・センター造られる予定です。

 この「ザ・ビレッジ」は、オランダの「ホグウェイ」をモデルにしていますが、民間団体が運営する施設のため、その入居費用は、1日190ドルから245ドル、または月々6000ドルから7500ドルと見込まれています。残念ながら、政府補助のある公立の介護施設ではないため、費用は自己負担となり、誰でもが入居できるわけではありません。

 「認知症村」と呼ばれる施設に対し、反対意見もあります。それは、認知症の人が住み慣れた家や地域を離れ、言わば「隔離」された場所で暮らすことで、地域社会との交流が失われてしまうことへの懸念です。気心の知れた商店で買い物をしたり、行きつけのレストランで外食を楽しんだりすることができなければ、認知症の人の地域での共生は困難です。施設内では認知症の人が過ごしやすい反面、地域との接触がなく、「ホグウェイ」が「認知症患者のテーマパーク」とも評されている所以です。

 しかし、どのような方法であれ、認知症になっても、それまでのライフスタイルをできる限り維持し、その人らしさを失わずに生活することを念頭に介護が行われることが、症状の安定に繋がることは評価に値します。完全に自立した生活は無理でも、進行の程度により、普通にできることもあります。できないことは、代わりの誰かが代行すればいいのです。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

 

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