2018年3月8日 第10号

 人口の高齢化が進むにつれ、世界でも認知症が大きな社会問題となっています。先進諸国では、それぞれの国で認知症政策が行われています。中でもオランダは、認知症政策先進国といわれ、世界の注目を浴びています。

 オランダでは、2000年頃から、認知症ケアの国家戦略が本格化しました。具体的には、「全国認知症プログラム」、「認知症統合ケアプログラム」、「認知症ケア基準策定」と、段階を踏んで様々な政策が実践されています。その共通する狙いは、「認知症の人が、住み慣れた家で穏やかに暮らせる環境を保つこと」にあります。このような政策を実践することにより、オランダでは、認知症の人の約8割が自宅で暮らし、そのうちの半数が、一人の生活を続けているといいます。もちろん、地域差はあり、すべての人が満足した生活を送っているわけではありません。しかし、「早期発見・治療」、「家族の支援」が、国家戦略が功を奏しているのは確実です。

 オランダの医療、介護、社会生活支援に関する主な制度には、強制加入の①治療可能な疾患に関する短期医療保険、および②1年以上の療養や介護に関する長期医療保険、③地方自治体の公費中心となる社会支援法から成り立っています。介護者やボランティア支援は、地方自治体の役割とされています。

 家族(介護者)支援のサービスの例として、「ビュートゾルフ」(介護事業所)と、「ミーティング・センター・プログラム」があります。「ビュートゾルフ」は、地域看護師が起業した在宅ケア組織で、1チーム4人でスタートしたものが、現在は、10人から12人のチームで、50名から60名の人を担当しています。全国で500チーム以上(2014年時)に拡大しています。短期・長期医療保険を主な財源として、乳幼児から高齢者まで、地域の人たちの医療、介護、予防に取り組んでいます。「ビュートゾルフ」の事業は、国際的にも注目を集めており、イギリス、スウェーデン、アメリカ、日本で、実際にその方式が取り入れられています。「ミーティング・センター・プログラム」は、アムステルダム自由大学が開発した、長期医療保険による認知症の通所ケアと、地方自治体の社会支援法による介護者への支援を組み合わせたプログラムです。介護施設への入所を遅らせる効果があるといわれています。全国に80カ所以上(2014年時)あり、コミュニティー・センターなど、頻繁に地域の人たちが出入りする場所で行われ、地域の特性に合わせて発展しています。

 他に、早期支援のサービスとして、「ヘリアント」があります。人口60万人エリアの老人ホームとメンタルケアのネットワークを母体として設立され、「認知症のケースマネージメント」や「認知症ケースマネージャー」の先駆的な取り組みで、オランダの認知症国家戦略のモデルのひとつとして注目されています。主な財源は、短期医療保険です。

 暴力や徘徊の原因が、認知症の人の不安に起因していることから、不安が取り除かれれば、落ち着きを取り戻します。症状が和らぐことにより、多くの場合、家族である介護者が、仕事や子育てを犠牲にすることなく、無理のない介護ができると考えられています。常に地域ごとに認知症の本人と家族(および身近な介護者)、専門職が相談を重ね、生活上の問題、不安などの意見を政策作りに有効に活かす、「利用者視点」、「地方発」がオランダの認知症介護の特徴といわれています。

 認知症の介護に必要なのは、認知症の人だけでなく、介護者を含めた支援を行うことや、認知症の診断を受けた後、早い時期から支援に入り、専門職や同じ地域の人たちとともに、問題が発生した時に、深刻化する前に手を打っておくことです。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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