2018年3月22日 第12号

 もうすぐ母の命日がやってきます。その数日後、私は誕生日を迎えます。皮肉にも、母の葬儀が行われた日は私の誕生日でした。ですから、嫌でも毎年、 誕生日には母のことを思い出します。

 しかし、命日がくる度に、母が亡くなってから何年経つだろうと、あらためて考えなくてはなりません。今年で4年になりますが、認知症と診断されてから亡くなるまでの経緯、亡くなってからの遺産相続の問題など、いろいろなことを考えると、その4年という期間は、長くも短くも感じられます。

 母は、自分ひとりで生活できなくなったら、介護施設に入所するつもりでした。本人からもそういう話を聞いていましたし、いくつか目星をつけた施設から資料を取り寄せてもいました。実際に見学に行った所もあるようです。父が亡くなってしばらくは憔悴し、軽い鬱ではないかと思えるような時期がありましたが、いよいよひとりになってみて、家族には迷惑をかけたくないという思いから、介護施設に入所することが最善策と考えていたようです。しかし、結局、どこの施設に入ることも、ましてや自宅に戻ることもなく、病院で息を引き取りました。母にとって、それが本望だったとは思えません。

 ひとり暮らしだった自分の母親、つまり私の祖母が、亡くなるまでの数年間を介護施設で過ごしたという経緯からも、母は、まさか自分が同じような形で人生を終えるとは思ってもみなかったでしょう。病気の種類や施設の種類こそ違え、最後には寝たきりで、意思疎通もままならなくなり、家族に看取られることなく息を引き取ったところまで同じになりました。交通機関を乗り継ぎ、時間をかけて祖母が入所していた施設を訪ねる母に、私も度々、同行しました。訪問する度に、元気な頃の祖母の面影はだんだん消え、孫の私が来ていることははっきりわかっているのに、話をすることはできません。祖母に会い、施設を後にする時の、いろいろな感情がごちゃ混ぜになった気持ちや、同じような施設の光景を、その時の母と同じ立場で目の当たりにすることになるとは、夢にも思いませんでした。

 母の誤算は、「普通に」年を取ることを想定していたことです。高齢になれば誰もが処方されるような薬をいくつも飲んではいましたし、やはり高齢になると罹りやすい病気や怪我の手術もいくつか受けました。でも、それなりに健康は保たれ、趣味を楽しみ、時々、数十年来の付き合いのある友達と会い、時には旅行に行き、 悠々自適の老後を送っていたはずです。 海外在住の娘に連れられてやってくる孫たちに会うことも、毎年、心待ちにしていました。そこに、「認知症」の入る余地はなかったでしょう。それでも、市民講座などで「認知症」について知ろうとしていたようですが、誰もがそうであるように、「認知症」になった後のこと、つまり、残された時間の過ごし方や最期の迎え方までは考えが及ばなかったようです。

 その形は違っても、死はすべての人に平等に訪れます。そこそこ健康に年を重ねている人の誰もが、「ピンピンコロリ」と逝きたいと望むでしょう。しかし、特に、「延命措置」に対する意思表示の必要性がそれほど浸透していない社会では、 明確な意思表示をしない限り、望み通りに人生を終えられる可能性は低いでしょう。自ら望んでの延命措置であれば、それはそれで幸せですが、意思表示ができない状態で、家族の意見が尊重され 、延命措置やその他の方法で 「生かされた」結果、 寝たきりの状態で長生きする。表面上は、平均寿命を越え、長生きしたことになっても、身の回りの全てのことへの介助や介護がないと、生活も生命も維持できません。

 望まない最期にしないために、判断能力のあるうちに、自分に残された人生の「生き方」、その延長にある「死に方」を改めて考える。そんな時期に差し掛かっていませんか?

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

 

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