2018年11月1日 第44号
久し振りの日本で、高校時代の友人たちと食事に行きました。四年ぶりの会話に花が咲き、特に注目を集めたのが、身体の重心の話です。仲間の一人が、自分の体重は、「コ」の字型にかかるということから、話が始まりました。普通、 「う」の字型にかかる体重が、足指側にかからず、かかと側にかかるので、「コ」の字型になることがわかったというのです。
この話を聞いてそれほど経たないある日、普段はテレビを見ない私が、たまたまテレビを見ていると、「爪」を特集していました。手指の爪の若返り法、爪に負担をかけない爪の切り方や手入れ方法の他に、足の爪のトラブルにも話が及びました。足の爪のトラブルの中でも、「巻き爪」が「健康寿命」を短くする原因になるというのです。
「巻き爪」とは、爪の端が内側に巻き込んだ状態になることで、多くは足に起こります。「巻き爪」のある部分に痛みが出るだけでなく、姿勢や歩き方が悪くなるため、膝や腰の痛みの原因となり、特に高齢者の場合、転倒につながる危険もあります。主に、「間違った爪切り」や「爪への過剰な力」、また、「指に力がかからない状態が長く続くこと」が原因で起こります。「コ」の字型重心の友人、まさにこれが原因で「巻き爪」気味のようです。
「指に力がかからない状態」とは、足の指に力を入れずに歩く癖があったり、寝たきりだったりすることが原因で、親指に体重がかからない状態です。もともと、爪は丸まる性質があり、通常は、歩く時に力が加わることで、平らな状態に保たれています。しかし、力が加わらない状態が続くと、爪はどんどん巻いていってしまうのです。特に足の親指に力が入っていないと、足の裏の外側に体重がかかるようになり、それがふらつきの原因になり、転倒しやすくなります。打ち所が悪ければ、脳震盪を起こしかねません。また、歩き方が「ペンギン歩き」になり、足が持ち上がりにくくなります。足が持ち上がりにくくなることは、膝下の筋力の低下にも繋がります。筋力が低下すると歩かなくなり、 そのままにしておけば、いずれ歩けなくなります。症状がひどくなり、痛みで歩くことが辛くなれば、やはり歩かなくなり、爪が巻こうとする性質を助長することにもなります。この悪循環を断ち切るしか、改善の方法はありません。
しかし、まさか「巻き爪」が原因で、「健康寿命」が短くなるとは、考えてもみませんでしたが、説明を聞くと納得がいきます。 2000年にWHO(世界保健機関)が「健康寿命」を提唱して以来、寿命を延ばすだけでなく、いかに健康に生活できる期間を延ばすかに関心が高まっています。「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義されている「健康寿命」と「平均寿命」の差は、日常生活に制限のある「健康でない期間」を意味します。日本の場合、2016年の時点で、この差は男性8・84年、女性12・35年でした。(厚生労働省「第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会資料」より)今後、平均寿命が延びるにつれ、この差が拡大すれば、医療費や介護費の増加による家計への影響も大きくなるでしょう。常日頃から、健康に気をつけるだけでなく、「健康でない期間」への備えも重要になってきます。
どちらかと言うと見落とされがちな「爪」も、身体の他の部分同様、健康な生活を送る上で、大切な身体の一部です。もし、何か異常に気づいたら、できるだけ早く、専門医の診断を受ける必要があるでしょう。
ガーリック康子 プロフィール
本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定