2018年10月11日 第41号
先のロングウィークエンドの期間中に、いつものようにCBCラジオを聞いていると、先月放送されたインタビューを再放送していました。オンタリオ州に住む70代後半の男性のインタビューです。この男性は、まず、認知症の前段階とされているMCI(Mild Cognitive Impairment/軽度認知障害)と診断されました。その後、症状が認知症へと進むことを想定し、どのような症状が見られた時点で、医師幇助自殺を望むかを、逐一、事前指示書(Advance Directives)に網羅しています。自分で挙げた8つの症状のうちのどれかが顕著になった時、認知症が深刻になり、それ以上悪化するのを待つ前に、自らの死期を選ぶことを希望しています。
しかし、認知症と診断されている場合、何かを決定する際の判断能力がないと見なされるため、医師幇助自殺により自分の死期を決める選択肢がなくなります。これに対して、前もって意思表示した自分の希望通りに「死」を選択することは自分の権利であり、認知症と診断されているという理由でこの権利を奪われるのは、差別以外の何ものでもないと主張しています。また、事前指示書は、何らかの理由で医療的措置を行う際に判断能力を失った本人に代わり、代理人がそれを指示するためのもので、病気の種類により、扱いが変わるのはおかしいとも言っています。
2016年6月にカナダで法律として施行された医師幇助自殺には、資格要件があり、申請をするうえで、それらのすべてを満たす必要があります。カナダの公的な健康保険を利用する資格があること、判断能力のある18歳以上の「成人」であること、重篤で回復することのない健康状態にあること、周りからの影響や強制によるものではなく、自発的に自らの判断で医師幇助自殺を希望することなどで、自らの死を選択する判断能力の有無は重要な要件のひとつです。医師幇助自殺を希望し、それを申請する時だけでなく、実際の死の直前まで、正しい判断能力があると見なされる場合のみ、医師の手助けのもと、自らの死期を選ぶことができます。判断能力の有無が大きな鍵となるため、18歳未満の「子供」には 医師幇助自殺を選択することはできません。精神疾患がある場合や、認知症の診断を受けている場合も、判断能力がないと見なされるため、申請することができません。実際のところ、先の男性のように、要件を満たす状況になる前に、前もって申請しておくことはできません。
医師幇助自殺の大まかな手続きとして、まず、要件を満たしているかどうかを査定する二人の医師または専門看護師、さらに、医師幇助自殺を望む個人とは全く独立した二人の証人が必要になります。査定する医師または専門看護師、および証人になるためには、それぞれに条件があります。一度申請した医師幇助自殺は、いつでも取り下げることができ、一部の例外を除き、申請書に署名した日から、実際に医師幇助自殺を行う日まで、中10日をあけなくてはなりません。予定された日の当日、実際に行う直前に、取り止めることができる旨が伝えられ、本人が実行に同意することを今一度確認します。
自殺に対する宗教的な考えに基づく理由や、倫理的な理由などから、医師幇助自殺に反対する医師もいます。幇助を行う医師への風当たりが強いため、どうしても医師が消極的で、医師幇助自殺に協力的な医師を探すことから始めなければならないこともあります。また、病院などの医療施設がどのような理念に基づき医療を提供しているかにより、医師幇助自殺を行わない所もあるため、入院している病院から他の病院に転院しなければならないこともあるようです。
もし、あなたがこの男性と同じ立場に置かれたら、どうしますか?
ガーリック康子 プロフィール
本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定