2019年1月17日 第3号

 「認知症」は、その種類によって症状が多岐に渡るため、正しい診断を下すのが非常に難しいと言われています。脳血管に明らかな異常がみられる「脳血管性認知症」や、脳の一部に異常がみられる「前頭側頭型認知症」は、原因が特定できますが、加齢とは異なる病的な脳の萎縮が認められる、「アルツハイマー型認知症」や「レビー小体型認知症」の場合は、認知症を専門としている医師でも判断が難しいことがあります。人間の脳は、加齢により自然に少しずつ萎縮しますが、萎縮が進んでいても「認知症」を発症しない場合があることも、さらに診断を難しくしています。

 先日も、「認知症」という診断を受けていた家族が、実は「認知症」ではなく、「老人性うつ」だったという方のお話を聞く機会がありました。「認知症」のような症状の原因を追求すると、薬の飲み過ぎに辿り着き、必要のない薬を止めると、ある程度、症状は改善しましたが、完治したわけではありませんでした。さらに調べた結果、「老人性うつ」が疑われ、正しい薬を処方することにより、症状が改善しました。おそらく、「認知症」の診断を受けた後、「認知症」の進行を遅らせる薬を服用していたことも考えられ、症状をさらに悪化させていた可能性もあります。

 「老人性うつ」は、定年退職による社会的役割の喪失や子供の独立、引越しのような大きな環境の変化が発症のきっかけになります。また、配偶者や親しい人との死別や離別、重い病気に罹り、なかなか治らない、あるいは、病気の後遺症が残ったことなどによる心理的要因も引き金になります。例えば、実家で一人暮らしをする親を心配して、子供が近くに呼び寄せたことや、長く飼っていたペットが死んだことでも、「うつ病」を発症することが考えられます。また、環境的要因と心理的要因の両方が原因となっている場合もあります。

 「老人性うつ」の場合、若い年代の「うつ病」と比べ、 精神症状よりも、「頭痛」や「めまい」、「食欲不振」、「肩こり」、「吐き気」、「耳鳴り」、「しびれ」などの身体的不調を訴えることが多いのが特徴です。しかし、これらの症状の原因が「老人性うつ」であるため、病院で検査を受けても、特に異常がないと診断されることになります。精神症状の特徴としては、「妄想」や、「不安」、「緊張」があります。特によく現れる「妄想」でも、「心気妄想」(軽い病気でも不治の病と思い込むこと、あるいは、病気でないも関わらず病気と思い込むこと)、「罪業妄想」(罪を犯した、警察に捕まるなどと思い込むこと)、「貧困妄想」(お金がない、破産したと思い込むこと)が典型的です。他にも、「不安」や「緊張」の症状の現れとして、強い不安感や焦燥感を感じる、落ち着きがなくなる、意欲が低下し、趣味やそれまで好きだったことに対して興味を示さなくなる、出不精になる、近所の人が買い物帰りに挨拶をしても、返事をしなくなる、といったことが目立つようになります。

 これらは、「老人性うつ」の症状ですが、「認知症」の場合も同じような症状が現れます。ただし、もともとは「うつ病」からくる症状のため、そのまま放置しておくと、症状が悪化し、自死に至ることもありえます。できるだけ早く、認知症の専門医の正しい診断を受ける必要があります。しかし、専門医はまだまだその数が少ない上、自分が「認知症」と診断されることを恐れ、なかなか受診したがらない人もいます。また、「老人性うつ」と「認知症」を併発している可能性もあるため、専門家でも見分けることが難しいというのが現実です。

 服用している薬が抑うつを引き起こしていることや、「認知症」以外の病気を併発していることもあります。自己判断に頼らず、医療機関で相談することをお勧めします。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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