2019年1月24日 第4号
「認知症」と間違えられやすい疾患や症状のひとつに、「せん妄」があります。高齢者に多く発症する意識障害の一種で、症状が「認知症」とよく似ています。しかし、「認知症」と違い、「せん妄」は突然発症し、数時間から数週間ほど症状が続く一過性のもので、発症の時期が特定できます。1日のうちで症状が時間とともに変化するのも、「せん妄」の特徴です。
「せん妄」の明確な原因は解明されていませんが、高齢であることや脳の機能低下があることに起因する虚弱な状態に、身体的、心理的因子が加わることで起こると考えられています。 急病などの身体的ストレスや、薬に含まれる成分への反応、身内や友人の不幸といった心理的ストレスなどが引き金となり、「せん妄」を発症します。「せん妄」が、入院先や旅先で起こりやすいのも、環境の変化からの心理的ストレスが引き金になると考えられています。 新しい薬を飲みはじめた時も、それが原因となり「せん妄」が起きることがあります。
「せん妄」の症状として、主に、「見当識障害」(時間や場所がわからない、最近のことが思い出せない等)、「睡眠障害」、「妄想、幻視や幻聴」、「精神運動障害」(行動上の異常と意思統合の障害)、「情動障害」(体のだるさや疲れ、気分の落ち込みなどの気分障害)が現れます。具体的には、次のような行動がみられます。
興奮状態にあり、暴力を振るう、大声を出して暴れる、落ち着きがなくなる他、不眠、昼夜逆転などの睡眠障害が出ることがあり、これらを「過活動型せん妄」と呼びます。反対に、無表情で、無気力、乏しい反応、食欲の低下、頻繁な傾眠(強い眠気を感じ、たびたび居眠りをする状態)など、混乱が静まっている状態です。これらは、「低活動型せん妄」の症状です。「過活動型せん妄」と「低活動型せん妄」が混在して現れるのが、「混在型せん妄」です。日中は低活動型で、夜間に過活動型になるもので、全体の約50%を占める、最も多い「せん妄」の現れ方です。
「せん妄」が起きるには、「準備因子」、「誘発因子」、「直接因子」の3つの因子が引き金になります。まず、「準備因子」とは、脳の機能低下などの原因によるもので、脳血管障害、頭部外傷などの中枢神経系疾患、認知症などの慢性脳疾患、加齢、パーキンソン病、腎不全、甲状腺機能障害など、様々な原因が考えられます。次に、「誘発因子」とは、文字通り「せん妄」を誘発するもので、入院による環境の変化や孤独感、不安などの心理的ストレス、脱水、感染、電解質異常、心不全、低酸素症、呼吸不全、便秘などの身体的症状、睡眠障害、五感の感覚の低下や過剰反応などが考えられます。3つ目の「直接因子」として、睡眠薬、抗不安薬、総合感冒薬、鎮静薬、モルヒネなど、薬の副作用によるものの他に、急性アルコール中毒や違法薬物の使用によるもの、手術で使用する麻酔や酸素の影響やそのストレスなどが原因となりえます。
その原因により、日中の行動は普通でも、夜になると「せん妄」が現れ、意識が朦朧としてうろうろしたり、昼夜が逆転したりする「夜間せん妄」、手術に必要な麻酔や酸素、薬などの影響で起きる「術後せん妄」、日常的に服用する薬が原因で起きる「薬剤性せん妄」、アルコール依存症の人がアルコールをやめようとする時に起きる「アルコール離脱せん妄」があります。特に高齢になると、 複数の要因が 「せん妄」を引き起こしている場合があります。
さっきまで「せん妄」状態だった人が、急に正常な精神状態に戻るということもよくあり、頻繁かつ継続的な観察を怠ると、「せん妄」を見逃していまいます。しかし、「せん妄」の特徴や症状についての一般的な認識は、それほど普及していないのが現状です。
「認知症」との識別も難しいため、何かおかしいと思ったら、直ちに医師の診察を受けることが重要です。
ガーリック康子 プロフィール
本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定