2018年12月13日 第50号

 最近、むせやすくなった、喉が詰まるような感じがする、唾液が喉にたまるようになった、というようなことはありませんか?

 加齢に伴い、体の他の筋肉と同じように、喉の筋肉も衰えてきます。「嚥下機能」(物を飲み込む機能)は60代から低下するのが一般的ですが、喉の筋肉の衰えは、40代から始まるといわれています。

 喉には気管と食道があり、物を食べたり飲んだりすると、「咽頭蓋」(喉仏の裏側にある筋肉)が瞬時に働き、気管に蓋をすることにより、食べ物や飲み物の気管への流入を遮断します。この筋肉が衰えると、飲み込んだ物が誤って気管に入ることがあります。本来であれば、むせても、咳き込んで排出する「咳反射」が機能します。ところが、「咳反射」の衰えとともに、飲み込むための筋肉が衰えていると、「嚥下機能」が低下し、咳き込むと、吸気以外に、食べ物や飲み物、唾液、唾液に含まれる細菌やウイルスなどの異物が気道に入り込みます。その量が少なければ、気道の粘液線毛輸送系や免疫機能が働き、異物を排除し体を防御します。ところが、「嚥下機能」が低下していると、そのまま気管に流れ込んでしまいます。これを「誤嚥」といい、「誤嚥性肺炎」の原因になります。

 「2017年人口動態統計」が厚生労働省から発表されるまで、「肺炎」は「がん」、「心疾患」に続き、日本人の死亡原因の第3位でした。2017年のデータでは、第5位になりましたが、「肺炎」で亡くなる人の9割以上が75歳以上の高齢者で、その7割以上が「誤嚥性肺炎」とされています。また、「誤嚥性肺炎」は、認知症が進行すると合併しやすい症状のひとつでもあります。認知症が中度から重度に進行すると、 頬や舌、喉の神経や筋肉が協調し機能することが難しくなることが原因です。この肺炎こそ、認知症の人が終末期に亡くなる原因の大きな要因になっています。「誤嚥性肺炎」になると、咳、痰、呼吸困難、発熱などの症状が出ますが、これらの症状は高齢者には現れにくく、倦怠感を訴えるだけの場合もあります。食事中にしょっちゅうむせる、ひどく痰が絡んでいる、風邪でもないのに咳が出るような場合は、「誤嚥性肺炎」の可能性があります。

 衰えてきた喉の筋力は、トレーニングをして鍛えることができます。トレーニングの主なポイントは、飲み込む力を高める(喉仏を上下に動かす筋肉を鍛える、)「咳反射」を強化する(横隔膜と肋間筋などの呼吸筋を鍛える)、唾液を増やす(唾液腺をマッサージし、舌を出して動かす)ことにあります。その方法をインターネットで検索すると、いろいろな種類の体操が出てきます。その中から、最も頻繁に紹介されている体操を4つほど挙げておきます。

 まず、「パタカラ体操」です。口を大きく開け、舌を意識して、「パ・タ・カ・ラ」と大きな声で繰り返し発声します。「パ」は口をしっかり閉じて、「タ」は舌が上顎にくっつくように、「カ」は喉の奥を意識して、「ラ」は舌を丸めるようにして発音します。「パ」と「タ」は唇と舌の筋肉を鍛え、「カ」は食道に繋がる喉を動かし、「ラ」は食べ物を喉に送る舌の動きを鍛えます。次に、「おでこ体操」。額に手のひらを当てながら、おへそを覗き込むように下を向き、手のひらで額を上に向かって押し戻します。喉を意識し、喉仏が上に上がった状態で5秒ほど保ちます。飲み込むために必要な筋肉を鍛えます。もうひとつは、「あご引き上げ体操」です。下を向いてできる限りあごを引き、下あごに両手の親指を当て、強すぎない程度にあごと親指を押し合います。喉仏が上に上がった状態で5秒ほど保ちます。「おでこ体操」と同様に、飲み込むために必要な筋力を鍛えます。いずれも、喉を意識して、食前に5回から10回ほど行うと、飲み込む力が高まることにより、誤嚥のリスクが少なくなり、より効果的です。最後は、「舌回し体操」です。口を開けて、舌を思い切り突き出し、上、下、左、右の順で舌を動かします。舌をそれぞれの方向に曲げられるだけ曲げるようにします。唾液腺が刺激され、唾液の分泌が促されます。

 歳を重ねても、できるだけ長く日々の食事が楽しめるように、食前の喉の筋トレ、始めませんか?

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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