2016年9月15日 第38号

泉康雄

 ここアルバータは、すっかり秋模様になった。朝晩も寒くなり、真昼の温度計が15度を示している日がある。

 今朝は、明け方に我が家のヒーターが働きだした。その音がかすかに聞こえ、部屋の通気孔から暖かい風が入ってくる。「あー、もう秋だなあ」と寝ながら思った。

 起きて、窓から外を眺めると、庭の木々も何となく寂しそうに樹っている。所々に見える落ち葉も一層の寂しさを感じさせる。「天高く馬肥ゆる秋」の諺を思い出した。しかし、今朝の空はどんよりと空を覆っていて、とても「天高く」とは言えない。秋を通りすぎて、もう初冬になったような気分さえするのである。もっとも、近くの農家にいる二頭の馬を時折見るが、以前より大きくなったようである。「食欲の秋」だから馬も肥ゆる、ということになる。

 僕はといえば、食欲はあるけれど、肥えることもなく、相変わらず痩せ気味である。4、5年前、かかりつけのお医者さんからダイエットを勧められた。「コレストロールの数値と糖尿の数値が上がると体にはよくありませんよ」と言われた。コレストロールの数値は、十数年前にすでに警告されていた。当時、少々太り気味を感じていた。しかし相変わらず好きなものを気ままに食べていた。その結果が出た。今度は糖尿の数値も気をつけろ、ということである。周りの人たちに聞けば、僕の数値はそれほど高くはない。しかし事前に注意することに越したことはない、と考えダイエットを始めた。ところが張り切りすぎて、必要以上にやったらしい。太り気味が痩せ気味になってしまった。後で知らされたのは、ダイエットのし過ぎも健康に良くないということだった。結局その後は、ずーっと痩せ気味で、いくら食べても太らなくなってしまった。

 全く世の中は、自分の体重までも思うようにならない。痩せ気味だから「馬肥ゆる」と聞けば羨ましくなってしまう。ところが、「馬肥ゆる」という表現は、元来、戦いの準備ができた、という古い中国的な言い回しだそうである。北方の騎馬民族は、馬に十分飼葉を与え、秋には肥えさせておいて戦いに出た、というのである。肥えさせられ、太らされた挙句、人間同士の戦いに出される馬こそ迷惑な話である。羨ましく感ずる必要はなかった。それなら「馬肥ゆる秋」より「読書の秋」の方が、よほど気が利いている。もっとも、読書は以前よりもしなくなった、というのが文明国の最近の傾向らしい。それよりも、手っ取り早くスマートフォーンで調べものをしたり、写真を楽しんだり、おしゃべりをしよう、ということらしい。勿論、小説までスマートフォーンに入ってしまう時代であるが…。「読書は心豊かな人を造る」ということも昔話になってしまったようである。

 

 

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