2018年9月20日 第38号
最近の日本では、超シンプルなお葬式や、墓をなくしてしまう、という驚くべきものが登場しています。
「直葬」と「ゼロ葬」
病院や自宅で亡くなった後、葬儀をせず、直接火葬場に遺体を持って行くことを「直葬」というそうです。火葬場で遺骨さえ受け取らないことを「ゼロ(数字の0)葬」と呼ぶこともあるそうですが、ゼロ葬を許可しない火葬場が多いようです。お墓の費用が高い都心などでは、お墓がないため、遺骨を家に置いているという人も多いとか。
墓じまい
永代供養墓地に移したり、中に入っている骨を山や海に散骨したりして、墓を撤去してしまうことをいうそうです。最近の日本では、墓じまいをする人が増えているといいます。その理由は、高齢の親が子どもたちに墓を守る面倒を残したくない、親が施設に入って墓参りをする人がいなくなった、墓がある所が遠くて行けない、など、様々です。以下は、私が昨年調べた、墓じまいのプロセスと費用です。
墓じまいのプロセスと費用
価値観の大きな変化
葬儀も墓もない…これらの現象は、日本人の死や墓に対する考え方がどんどん変わってきていることの現れです。ところが、海外生活者は、それぞれが日本から出てきた時点の日本の価値観を持ち続けています。こと、葬儀やお墓という話になると、ちゃんとすべきことだとか、墓参りはしないと気持ちが悪いとか、そう考える人は多いのではないでしょうか。
家族とのトラブル
それなのに、日本にいる兄弟姉妹が、今の価値観で親の葬儀やお墓などを処理してしまうと、親の死後、日本に行ったはいいが、「葬式もなく、墓もなく、手を合わせる場所がない」、「母に心配をかけたので、墓だけは私が作ろうと思っていたのに、散骨されてしまった」、など、すでに墓も遺骨もなく、どうすることもできない事態になってしまうこともあるのです。
墓じまい?体験
私も、昨年、母のアイディアで墓じまいをしようとしたものの、私の価値観でできなかった、という経験があります。
実家には二つ墓があり、母が、山の中にある方の墓を娘たちに残すのはかわいそうと思ったらしく、墓じまいの話をしてきました。私もそうするとお墓はひとつになるし、いいアイディアだと思い、最後の墓参りに行ったのです。
墓の掃除をしていると、墓石の後ろに明治時代に亡くなった人たちの名前が見えます。明治といえばそう昔でもないし、墓じまいなんてしていいのかという思いが出てきます。タクシーでくればそれほど遠くもないし、などと思っていると、母が雑草で手を切ったらしく指からぽたぽたと血が出てきたのです。大げさかもしれませんが、先祖が怒っているような気がしました。「やっぱり、このお墓はキープしよう」と思ったのです。
心の整理を
海外生活者の人には、墓じまいやゼロ葬などが「理にかなっている」と思われる方もいると思うし、そういう形しかできない人もいると思います。でも、それをする際には、私が経験したような「葛藤」があることを知っておいてもらいたいと思います。そして、あらかじめ、「死や墓」について心の整理をしておくといいと思います。例えば、先祖代々のお墓だとか、中に入っている人はどう思うだろうとか、そういうことに対する気持ちの整理です。そして本番では、「古い価値観を捨てる」思い切りを持って欲しいと思います。
角谷 紀誉子
著者略歴:ワシントン州認定ソーシャルワーカー。サクセス・アブロード・カウンセリング代表。留学生・駐在員・国際結婚家族などを対象に心理カウンセリングを提供してきた。著書に「在米心理カウンセラーが教える、留学サクセスマニュアル」(アルク社)、「親が読む、留学サクセスマニュアル」など。2017年、日本の介護システムをわかりやすく解説し、ケーススタディを用いて日本の親に何ができるかを具体的に紹介した、「遠隔介護ハンドブック」を出版。アマゾンUSAにて発売中。秋にバンクーバー「日本語認知症サポート協会」でセミナー予定。www.successabroadcounseling.com メールはThis email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it.