2018年9月13日 第37号
これまでの施設に入るタイミング
高齢者施設への入居を考えるのは、たいていは認知症や体の衰えがひどくなり、これ以上自宅での生活は難しくなったという場合がほとんどでしょう。
ところが、最近、これ以外の理由で住環境を変えざるをえない人が増えています。それは、自然災害と過疎化です。
自然災害で自宅で住めなくなる
最近の日本では、地震だけでなく、ゲリラ豪雨、いくつもの台風、竜巻、洪水など、今まで考えられなかったような大規模な自然災害が各地で頻繁に起こっています。家が被害にあったり、地域まるごと機能しなくなったりすると、いくら元通りの生活がしたくてもできなくなってしまうのです。
こんな例があります。橋ひとつで2、3軒の家が村とつながっていたところがありました。台風が直撃し、その橋が壊れてしまいました。ところが、そんな場所がこの地域には他にもいくつもあるため、自治体は、その橋の修理を断念、結局、陸の孤島になってしまった家々は引っ越しを余儀なくされたのです。
過疎化でその地域で暮らせなくなる
災害でなくても、収益が見込めない鉄道や市バスの路線が廃線になったり、ショッピングモールが撤退したり、スーパーが閉店する、商店街がシャッター通りになる、というのはよく見られる光景です。
地域によっては、定期的にトラックでミニ・スーパーがやってきてくれたり、買い物や病院を回るコミュニティーバスがあるところもありますが、過疎化が進むと、こういったサービスも、いつまで継続されるかはわかりません。
車があっても…
過疎化が進むと、車で生活していた人でも、これまでよりもっと遠いところまで運転しなければ買い物や病院に行けなくなります。高齢に伴い、事故を起こす危険性も高まりますが、かといって運転免許を返上すると、公共交通もないので生活できなくなってしまいます。
コンパクトシティとは
少子高齢化で過疎化が進んだ地方では、自治体が「コンパクトシティ」と呼ばれる街づくりをしているところがあります。国土交通省が推進しているもので、集約型の都市構造です。そこでは、スーパーや病院などが歩いて行ける範囲にあり、かつ、電車やバスなどの公共交通機関があり、車がなくてもどこにでも行ける、というようなコンセプトです。
例えば、富山市では、「串と団子」というコンパクトシティの作り方をしています。公共交通が串、徒歩圏を団子になぞらえ、高齢者には、できるだけ団子の中に住んでもらいたいと運動しています。そうすることで、高齢者は徒歩で買い物や図書館に行けるし、医者や歯医者にも通えます。もし在宅で介護が必要になった際には、まとまったところに何人も高齢者が住んでいると、ケアする側も効率的に回れるので、手厚い在宅ケアを受けられる、というわけです。
他にも、島根県ではいくつかの町村を合併し、それらと大きな都市をネットワークさせる、「多極ネットワーク型」のコンパクトシティを計画中です。北上市では、「あじさい型」で、大きな都市を「核」とし、地域が「核」と結びつくような作り方です。
どのアイデアも、「すべての人を強制的に一カ所に集める」、というのではなく、農村ごと、村ごと、というふうに小さなグループで集まって住み、そこに生活に必要なサービスを置く、という考え方です。
いつ住み替えるか
自然災害が起きたら、自宅での暮らしはできなくなるかとても不便になる、過疎化が進んでいる、というところに親御さんがお住まいなら、早いうちに、コンパクトシティ的な場所にある高齢者用住宅に引っ越すのもいいのではないでしょうか。
大切なのは、住み替えのタイミングです。高齢者には環境の変化は大きなストレスになります。認知症や体の衰えが進んでから施設に入ると、そこから体調を崩す人は多いです。しかし少しでも早いうちに、順応できるうちに、安全で便利なところに住み替えると、新しい環境に慣れて、自立した生活が続き、暮らしを楽しむこともできるのです。
角谷 紀誉子
著者略歴:ワシントン州認定ソーシャルワーカー。サクセス・アブロード・カウンセリング代表。留学生・駐在員・国際結婚家族などを対象に心理カウンセリングを提供してきた。著書に「在米心理カウンセラーが教える、留学サクセスマニュアル」(アルク社)、「親が読む、留学サクセスマニュアル」など。2017年、日本の介護システムをわかりやすく解説し、ケーススタディを用いて日本の親に何ができるかを具体的に紹介した、「遠隔介護ハンドブック」を出版。アマゾンUSAにて発売中。秋にバンクーバー「日本語認知症サポート協会」でセミナー予定。www.successabroadcounseling.com メールはThis email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it.