2018年9月6日 第36号

今回は、日本で配偶者を亡くした高齢者のお話です。団塊の世代が2017年に70代に突入し、国勢調査では65歳以上の864万人が配偶者と死別しているそうです。昔はそのような人を未亡人や、おとこやもめ、と呼んでいましたが、今は「没イチ(ぼついち)」と言うそうです。高齢化で没イチ人生も長くなります。死別の悲しみや疲れから立ち直って、新しい人生を切り開こう、というのが没イチの動きのようです。

 

おひとり様ツアー

 「複数での申し込みお断り」というパッケージ旅行が人気だそうです。夫婦や友人同士では参加できないのです。参加者全員がひとりなので、気後れしないうえ、団体旅行の便利さや安心があります。しかも、宿泊する際はひとり部屋をもらえます。観光中や食事の時には、他の参加者との交流ができるので寂しくはありません。全く知らない人との会話ははずむし、旅行が終わればその後は会うこともない、という気楽さで毎年参加者が増えているそうです。

 

死後離婚

 死んでから離婚?と思われるでしょう。法的には配偶者が死んでから離婚はできません。「死後離婚」は造語で、配偶者の死後、配偶者の家族との縁を切ることをいうそうです。義理の家族と関わりたくない、義理の親の介護をしたくない、などで死後離婚を考える人が多いといいます。手続きは、「姻族関係終了届」なるものを提出すると、一方的に彼らとの関係を終えることができます。しかし、子どもと彼らの関係、例えば、孫と祖父母やおじおばの関係までは終了できない、ということです。

 

シニア婚活

 結婚相談所というと、昔は若い人たちが利用するものでしたが、最近では高齢者の利用者が急増し、高齢者専門の婚活サービスさえあるそうです。これに申し込む人たちは、「話し相手が欲しい、気の合う人と過ごしたい」というのが一番の理由です。女性は経済的な理由も多く、リタイアまで仕事を持っていた人でも、現役時代の賃金が低いと年金も少ないので、「ひとりの老後に不安」を持っているようです。男性は、将来の自分の介護を考えて申し込む人が多く、子どもや他人ではなく、「妻に看取ってもらいたい」というのが男性の希望のようです。

 再婚までいかずとも、女性も男性も、婚活に参加することで、お化粧を始めたり、洋服を買い換えたり、身の回りのことをきちんとするようになり、生活の張りや励みになるというメリットがあるそうです。

 

実際の再婚は…

 実際に再婚となると話は別です。すぐに結婚したい人もいれば、数年はお付き合いしてからという人、入籍まではしたくない人など、思いは様々です。全体としては、同棲や事実婚はしても入籍までには至らない熟年カップルが増えているそうです。

 

子どもは再婚に反対

 再婚であっても、どちらかが亡くなれば法律上は財産の半分は再婚相手のものになります。そのため、子どもは『財産目当てでは?』と考えて反対する人が多いようです。「どうしても再婚したいので、家と土地をすべて子どもに贈与する手続きをした」という親もいるそうです。

 介護を考えて反対する子どももいます。没イチになった親ひとりの介護を予定していたところに、親が再婚すると、介護をする親が二人に増えることもあるからです。再婚相手に子どもがいない、いても介護する気がない、などの場合です。そうなると、経済的にも二倍以上の出費になるうえ、親が亡くなり相続の際には、配偶者側の家族が関わってくる可能性もあります。

 

高齢者の恋愛を受け入れる

 昔の日本の感覚では、“おじいちゃん”や“おばあちゃん”が恋をしたり結婚相手を探したりするのは、はしたない、気持ち悪いというイメージでした。しかし、いくら年齢を重ねても、人は人が恋しいものだし、人を好きになる気持ちは自然なのです。

 ちなみに、アメリカでリタイア人たちが住むシニア・コミュニティーでは、2015年から2016年に性病にかかった人が20%増えたそうです。日米ともに、今の高齢者は若く健康です。親が歳だからと言って、「隠居」のイメージを持っていると、驚かされるのは子どものほうかもしれません。

 


角谷 紀誉子

著者略歴:ワシントン州認定ソーシャルワーカー。サクセス・アブロード・カウンセリング代表。留学生・駐在員・国際結婚家族などを対象に心理カウンセリングを提供してきた。著書に「在米心理カウンセラーが教える、留学サクセスマニュアル」(アルク社)、「親が読む、留学サクセスマニュアル」など。2017年、日本の介護システムをわかりやすく解説し、ケーススタディを用いて日本の親に何ができるかを具体的に紹介した、「遠隔介護ハンドブック」を出版。アマゾンUSAにて発売中。秋にバンクーバー「日本語認知症サポート協会」でセミナー予定。www.successabroadcounseling.com メールはThis email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it.

 

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。