2019年7月4日 第27号

 ここのところ仕事が忙しすぎるくらいに忙しいし、家に帰ったらチョッと食事をとってただ眠るだけ。他に研修もあるし来月は出張か〜…と、嘆きながらも頑張れるあいだは良い健康状態なのかも知れません。でもだんだんと時が経ち季節が移ろって疲れが溜まってくると風邪もひきやすくなってきます。自分は若いから大丈夫とか、身体だけは人一倍強いから大丈夫とか、風邪ぐらいひいたってすぐに治るから大丈夫とか、2〜3日薬を飲めば大丈夫とか自分自身を過信していませんか。風邪の後や薬を飲んだあと一週間ぐらいしてなんとなく外陰部に痒みを感じたり、オリモノが増えて白っぽくなったりしたら、真菌症(カンジダ症)を先ず疑います。

 カンジダは膣の中に常に存在する菌(常在菌)のひとつで、人間の抵抗力(免疫力)が弱くなるとやおら菌の方が元気になって人間を攻撃し始めるのです。菌が増えてくれば白っぽいオリモノも増えてきますし痒みも増してきます。いくら痒くても昼間は我慢してでも掻かないで済むかもしれませんが、眠っているときはそうはいきません。無意識で掻いてしまいますので、爪によって浅い傷ができて、菌が皮膚の中にどんどん入り込んでしまい、皮膚にいる細菌も入り込んでしまって混合感染をおこす事もあります。皮膚が化膿したり爛れたり出血したりして広範囲に病変部が広がってしまうことも有りますが最近では滅多にこれ程まで進行した病変は見ることが有りません。

 カンジダ症は、ごくありふれた疾患のひとつです。もちろん悪性の病気ではありません。ミズムシみたいな皮膚病です。ただミズムシと違うのは、皮膚病変が治っても治癒したことにならないのです。外陰部は外用薬で治療しますが、カンジダのおおもとは膣の中ですから、膣錠による治療が必要になってきます。小さな錠剤ですので簡単に挿入できます。カンジダは膣の常在菌だから治療する必要がないと言う事ではなく増えすぎてしまえば治療が必要になります。カンジダ症は繰り返す事が多いのでシッカリと治しましょう。ただあまりにも頻繁に繰り返すようであれば、免疫力の低下する疾患との関連を検索する必要が有るかもしれません。もうお分かり戴いたと思いますが、カンジダ症は免疫力に関係している疾患ですのでいくら局所を清潔に保っていても抵抗力が低下してしまえば発症してきますので、清潔に保つ事は細菌感染を防ぐには大切なことですが、同時に抵抗力の維持にも注意が必要という事になりましょう。

 もうひとつ女性にとっては大切な、重要な、しかも新しい命の誕生にかかわる妊娠と言う大事業があります。妊娠中は胎児は母体に異物として認識されないように免疫原性を低下させる一方、母体は胎児を異物として認識しないように免疫力を低下させて妊娠を継続させ分娩に導くのです。妊娠を維持・継続させるには母体の免疫力の低下が必要な条件になってきます。従って風邪など感染性疾患に罹患しやすくなったり・外陰カンジダ症に罹りやすくなってきます。でも膣や外陰は産道の一部としての重要な役割を担います。誰しも赤ちゃんがカンジダで感染を受けた産道を通って欲しいとは思わないでしょう。それどころか分娩までには、絶対に完治させる必要が有るのです。絶対に!! このように大変身近な疾患でも、免疫に関係している疾患なのだと考えると色々な面で予防や自分の健康状態の把握にも有益ですね。

 どうしたらカンジダに罹らないで済みますか?という質問をよくされますが、よく寝て、よく食べて、適度な運動をして、ストレスを溜めることなく心豊かに快活な生活をなさったら如何でしょうか、と答える事にしています。心の中では、こんな人いるのかな〜と、思いながらも、自分もこう有りたいと願いつつ…

 


杉原 義信(すぎはら よしのぶ)

1948年横浜市生まれ。名古屋市立大学卒業後慶応大学病院、東海大学病院、東海大学大磯病院を経て、杉原産婦人科医院を開設。 妊娠・出産や婦人科疾患を主体に地域医療に従事。2009年1月、大自然に抱かれたカナダ・バンクーバーに遊学。

 

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これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。