2017年2月23日 第8号
エッセイはエグザムのことだという話があるが、それは答えのない問いかけではないかという話もある。
僕の書いているエッセイは、きわめて曖昧な文章が多く、その意味で答えのない問いかけというべきものであろう。
最近、柴田錬三郎の『地べたから物申す』という本を読んでいたら、その中に「現代には、五の知識しかないくせに、十あると見せかけようとする評論家や作家が、多すぎはしないか。多少でも持ち合わせている知識をひらけからすのなら、まだ我慢できる。ないくせに、あるがごとく見せかけようとするから、こっちはむなくそが悪くなるのである。知らないものは、『知らない』といえばいいではないか。日常会話さえろくにできないくせに、たかが3ケ月か半年、アメリカやヨーロッパへ行って来て、たちまちナントカ旅行記などを書く作家がいるが、なんともあほらしい。(中略)私が明治生まれの先輩がたに頭を下げるのは、その人達が、『知っている』くせに、ごく自然に知らぬふりをしている点にある。」
明治に生まれた先輩方はえらかった。知っているのに知らないふりををする。これぞ男の美学かもしれない。昔の人は着物でも裏地に高価な生地を使い、見えないところに見栄をはるが、今の人は見かけだけで、時代や流行に取り残されないようにするだけかもしれない。
ギリシャ風なのか、西洋ではとにかく自己主張をはっきりしなければならないイエスとノーの世界、その世界に住めば知らないことでもいかにも知っているように主張をして言論戦に勝つことが大切なようである。そのことをギリシャ風にいえばソフィストと言うようである。トランプ氏の選挙戦の主張は、その一番良い例かと思える。
僕のエッセイなども、その最たるものかもしれない。五の知識で十のことを書いている訳だから、柴田錬三郎氏に怒鳴られるところであったかもしれない。幸い日本の外での暮らしであれば、日本の価値観が半減するか、通用しなくなるように思える。小生のエッセイも答えのない問いかけの書き物であれば、柴田氏よりお許しをいただけけるものと思うものである。
小さい頃から、ぼくには自己表現の強い癖があったのか、あるとき母から「能ある鷹は爪を隠す」と言われ、さとされたことがある。
幕末に「これからは文明開化でござる。アメリカやエゲレスと友好を結ぶべきで攘夷はもってのほかでござろうと思われ候」と我が先祖が藩主に意見を申したかもしれないが、藩は尊王攘夷がおおかたの意見となり、先祖の家は一代のみで御取りつぶし、子息は他家へ養子、もしくは御預けとなることは、僕の性格を遡ればありえたことかもしれないと想像をめぐらすことは、小生の楽しみの一つである。
あの天才戦略家織田信長でも中国で有名な孫子の兵法の書物は読んでいなかったと思うけれど、画期的な戦術で天下を目指したのは、彼の持つ勘と独創力であろう。
一方、武田勝頼や徳川家康は孫子の兵法は読んでいたように思われる。
従来の古典的兵法も大切であろうが、独創性を決断する勇気もまたまた大切に思える。
オートファジーの研究でノーベル賞を受賞された大隅良典氏の言葉に「人と違うことを恐れずに自分を見きわめよう」とある。
アメリカやカナダには、まだエジソンやベルのような発明家がでてくる可能性はあるように思える。政治の面では、その一人がトランプ大統領かもしれない。これからの彼の手腕が期待されるところである。
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