2017年2月23日 第8号
「もしもの場合に備え、受けたい医療を明らかに」ということでしたが、非常に重要な課題で、特に私のような昭和一桁生まれの者にとっては、「もしもの場合」ではなく、近々きっと来る事態とわきまえて、心の準備をし、書類として準備しておく必要を感じました。最近の私の体験を記して、何かの参考になればと思い投稿いたしました。
私も健康には自信があり、今まで入院などしたことはなかったのですが、この1年、3度ER(救急医療)のお世話になりました。3度めはちょっと厄介で一週間入院の後やっと帰宅を許されたところです。
一般にこの歳になっても死ということは考えたくないし、またこの話題は避けて通りたいのが人情ですが、今回のように生死をさまよい、生命の尊さと、周りの人々の親切を身に染みて感じたことは何事にも代えがたい体験だったと今、家庭に帰った安心感と共に、感謝の気持ちでいっぱいです。
1.死は必ず来るもので避けて通れない
2.死は何の前触れもなく突然に来るもの
この2点を充分に自分に言い聞かせておくと、その時に備えて何をすべきかが、おのずと分かってくると思われます。しかし悲しいことに、そうした現実から目をそらそうとするのが人情であり、普通でもある。いたって日本で育ち、大きくなった我々の年代の者は(死)を前提とした話題はできるだけ避けて通りたい。今の日本でもそうかもしれないないが、ここカナダにおいては医者達はもっと現実的であることを理解すべきだ。
私の体験では、2度目のERの時は病状説明に納得がいかず、再度の検査を願い出たときに感じたことは、医師達は責任回避を試みているのが見え見えで非常な不快感を覚えた。我々日本人であれば、医師と患者の関係は人間関係の信頼性のもとにあると考えていた。例え少し誤診の疑いがあっても、訴訟など考えずに、古い考えかもしれぬが、文化の違いか、これが自分が持って生まれた運命であると自分に言い聞かせて済ます傾向があるが、こちらの医師たちは自分の身を守るために先ず法律的に責任回避の書類に署名を要求してくる。患者の容態にもよるだろうが、「もしもの場合には必要以上の治療は受けなくてもよろしい」という書類に署名させられる。家族と相談してとも言われるが、果たして同意しなかった場合の説明もなく、結局その場で署名ということに落ち着く。
今回の私の体験では、二度の心臓発作に襲われた。幸い二度とも軽い発作ですぐ正気に戻ったが、短時間であれ危険な状態であったらしい。二度目は院内で起きたので、直ちに、胸部と背中に極板を張り付けられ蘇生用の電気ショック機に繋がれ、そのおり蘇生ショックは二度が限界で、三度めは行わずお陀仏、という書類に署名させられた。二度以上は必要なしというのが常識なのだろうかと判断して署名したが、署名を拒否した場合のことを考える余裕など全くなかった。
翌朝目が覚めた時、「まだ生きていたな」と不思議な気がした。相変わらず機械につながれていたが、いま息をしている自分に気が付き生命の尊さと医学の進歩にふかく感じ入った。
しかし、昨夜、機械に繋がれたときは、これで我が命も最期かと観念した、案外と冷静な自分がいた。この場に来てバタバタしても仕方がないという自分に対する言い聞かせか、単なる諦めか、この一生、家族に色々と心配をかけたが、思いどおりに生きてきた我が人生に不思議と悔いはなかった。
一応、何年か前に遺書は書いてあるし、と考えたが、もしこのまま明日は目が覚めないまま、あの世行きなら、お世話になった皆さんにお礼の言葉も言わずにサヨウナラするのかと思うと寂しさがこみ上げてきた。特に長年(56年間)連れ添った妻に(ありがとう)の一言も言えないのかと思い、暗がりの中で紙とペンを探したが見当たらず、後悔の念で一杯であった。
翌朝は、今までに見たことのないような気がする外の景色だった。何となく新鮮でこの時ほど生きているという実感を覚えたことはなかった。
その日の再検査の結果、誤診という証拠はないが前回の検査の結果では心臓が機能してないという診断とは全く反対に異常なしという朗報で、現状の体力で充分に手術にも耐えられるという判断のもとに治療を受け、今は退院し養生中という生活に戻りつつあります。
今の心境は「いつ何が起きても静かに対応できるという自信」ができたし、妻への礼状の文面を考えている昨今です。
今回の体験より、
1.事前医療計画は年齢にかかわらず家族と相談の上、自分の意思を明確に記しておくこと
2.自分の体調は自分で管理し、納得のいかない場合はセコンド・オピニオンを得ること(現在、医師不足で別の医師の意見は難しいが、我慢せずERに駆け込むこと)
3.常に専門医に相談出来る様に努めること
最後になりましたが、私は今回の体験を通じて、カナダの医療保険制度と医療組織に深く感謝したく考えます。
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