2019年4月25日 第17号
時折、古い雑誌を読む。いわゆる「温故知新」であるが、それほど古い話ではない。1995年の『文芸春秋』の中にある宮崎勇氏のエッセイ『人類を愛した政治家』からである。
「私(宮崎)は、福田さんが蔵相(田中内閣)、副総理、企画庁長官(三木内閣)を経たあと七六年十二月から総理大臣時代まで役人としてお仕えし、その後私は民間の研究所に移ったが、ひきつづき薫陶をうけた」とある。
そして、福田さんの経済政策を三つにまとめて書いておられる。
「第一は『持続的な安定成長』論である。市場経済に景気変動はつきものである。しかし『山高ければ谷深し』で、極端に高い成長はインフレを招き、逆に、抑えすぎた成長は失業を生み、また貿易収支の黒字を必要以上に拡大させる。これまで多くの政治家や政策発動は概してtoo littleであったが、福田さんの場合はそうでなかった。石油ショックのあと物価が狂乱的に急騰したとき、打つ手は大胆かつタイムリーであった。引き締めが猛烈で貧乏神と評された。しかし、石油危機では日本が最も大きな打撃を受けたが、立ち直りは世界の中で最も早く、かつ見事であった。」
さらに「福田さんは決断は大胆であったが、その決定までは人の話も良く聞かれた、私が感心したのは、石油危機のときの『話あい』である。一時期、今朝も朝食会、明日も朝食会と、労働組合の代表者たちとの会合が続いた。コーヒーとトーストのおきまりはしたが、槇枝さん、樫山さん、富田さんなど錚々たる人達と話し合うことはいい経験でんあった」とある。
「第二は、『エネルギー、食料などの資源は有限であり、人口は、特に途上国で爆発的に増大している。であるから、これからは人口、資源、環境のバランスを考えながら、かけがえない地球での持続的成長をはからなければ為らない』というものである」その意味で、僕は原子力発電は有効と思われるがその廃棄物の処理のありかたが、大きな課題かもしれない。
そのことを、本文のなかで「この資源有限論は、『ものを大切にしよう!』という東洋的倫理観から生まれたものであり、また20世紀の工業化社会が科学技術の進歩に支えられて『経済発展をもたらした一面で、精神面での荒廃と南北格差の拡大を伴った』ことにたいする痛恨に由来すると思われる」
「そして、第三は、『国際的連帯と強調』を重んじられたことである。私は多くの国際会議にお供をしたが、『小異をすてて、大同につけ。我々は同舟共済だ。』という言葉をしばしば聞いた。おそらく、この認識は、『26歳から3年間を世界の中心であったロンドンにあって』、各国が利己的な立場に固執し、『世界経済の前面的縮小をもたらし』大恐慌になったこと、それが結果的に不幸な世界大戦につながっていくことを目の当たりにしたことに発しているのであろう。」とある。
最後のサミットで、福田さんは、20世紀を「栄光と残痕の世紀」と言われたという。今、20世紀から21世紀に、さらに「平成」から「令和」と元号が変わりゆくなかで、新しい時代の栄光と和平を祈りたいものである。
徳川の時代は、鎖国はあったものの、平和な時代が三百年ほど続いたのは世界史のなかでもまれなことらしい。司馬さんのエッセイのなかに『軽薄のエネルギー』といのがある。書き出しは「日本人がもつ、どうにもならぬ特性のひとつは時流にたいする過敏さということであるらしい。過敏なだけではない。それが時流だと感ずるや、何が正義か、何が美かなどの思考はすべて停止し、ひとの行く方向にむかってなりふりかまわず駆け出してしまう。この軽薄な、というより軽薄へのすさまじいエネルギーが日本の歴史をつくり、こんにちをうごかしていると考えられなくはない。ー」さらに「社会がこわれればすぐ建て直すことができ、文化や文明をつくるエネルギーもくみあげた社会から出してきた。こう思えば、軽薄も偉大な美質ということになる。」とある。軽薄なものは、水母のようにフワフワして流動的なものかもしれない。
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