2019年3月28日 第13号

「原始、女性は太陽であった。」

 

 大正時代の思想家で、女性の社会的地位の向上と世界平和に生涯を捧げた、平塚らいてうの言葉です。女性を太陽や月に喩えたグローバルな視野の持ち主!「さびしくば海とも寝よう、山とも寝よう」というドキッとさせる詩も残しています。

 物語を作るとき、自然を主人公にすること、それはなかなか思いつかないものです。ひとは自然から何か恩恵を受ける姿勢になってしまい、自然界と自分を重ねたり、自然界から自分をみるという視点には至りません 。

ノベル・セラピー、今月はバンクーバー在住の作詞家ミランさんが作られた「海の恋」を全文でご紹介します。

 

 毎日 、少女はその日にあったことを海に語りかける。友達のいない少女にとってそれはいつの日からか日課となっていた。

 少女は海辺にある小さなカフェを家族と営んでいる。海に向かって話をする時間だけが、少女にとってなによりも気持ちが落ち着く時間だった。

 海は少女の話に耳をかたむけているうちに、ふと人間というものに心を惹かれた。海である自分と違う、人間の持つ繊細な感情の起伏。人間を体験してみたい、 そう思った海は人間の器を作り、そこに自分を押し込めた。

 少女の名はドロシー。人間となった海はドロシーに浜辺で倒れているところを救われて、カフェの屋根裏で生活するようになった。

 朝と夕方に、ドロシーと海は毎日海岸を散歩した。海に話しかけていたドロシーは、今度は人間の姿となった彼にそうとは知らず話をするようになった。海は熱心に耳を傾けたが言葉を話すことができないので、何も応えることはできなかった。抱きしめればドロシーは濡れてしまうので、そうすることもできなかった。

 季節がひとまわりしたある日、悩みがドロシーの気持ちを落ち込ませて、海に何かを言って欲しそうに懸命に話し続けた。しかし言葉を話せない海はやはり何も応えることができない。ドロシーは落胆し眠りについた。

 その夜、海はドロシーが眠る傍らに、海辺で摘んだ小さな黄色の花といくつかの美しい貝殻を置いて、そっと海へと戻っていった。翌朝枕のかたわらに置かれた花と貝殻から香る海の匂いで、ドロシーは彼が誰であったかを知り、海岸線へと走った。

 ドロシーの眼前には、ドロシーの心の繊細な躍動を受けとめ抱きとめた、やさしく凪いだ大海原が広がっていた。

 

 ノベル・セラピーのセッションで、この繊細でかつ壮大な物語を作ったあと、ミランさんは自分の魂がゆさぶられたのを感じたと感想を語りました。自分の人生の主人公がいったい誰であるのかをもう一度深く掘り下げて、自分に問いかけてみたいと考えたそうです。

 クリエイターとして詩をつくることと、人として自分の人生を形作ること、その両方をバランスさせる秘訣が、潜在意識からやってくる物語を書いたことで、人生の指標として見えてきたのかもしれません 。

 あなたの人生の主人公は誰ですか?

 


Ojha Emu Goto ノベルセラピスト

 日本で雑誌,広告制作者として活躍していたが、98 年にカナダに移民。光の色波動を用いるZenith Omega Healing( ゼニス・オメガ・ヒーリング)のマスターティーチャーヒーラー。月刊ウェブ・マガジン “Cradle Our Sprit! ” www.ojha-angel-vancouver.net / 編集長。しらゆきのゆめ出版代表。

 著書に「アカシック・レコードの扉を開ける〜光の鍵」明窓出版(2010 年)。 ノベル・セラピーのテキストを兼ねた小説集「しらゆきのゆめ」を昨年末出版した。同時に 『しらゆきのゆめ』出版を設立し、バンクーバーの日系社会のみなさまの自費出版をお手伝いさせていただいている。

 昨年3月に日本縦断ノベル・セラピーワークショップツアーを行い、現在ノベル・セラピーで誕生した物語を Pod Cast での世界に向けたインターネット配信を準備中。ノベル・セラピーワークショップは随時開催している。ノベル・セラピー協会HPは、https://ojhaemugoto.wixsite.com/novel 自費出版及ノベル・セラピーのお問い合わせはThis email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it. まで。 

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。