2019年1月31日 第5号

「人間はね」と王子さまは言った。「急行列車で走り回っているけれど、何を探しているのか自分でもわかっていない。ただ忙しそうにぐるぐる回るばかりなのさ…」

 

 飛行家でもあるフランス人の小説家アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの『星の王子さま』。世界中で1億5千万冊を超えるロングベストセラー小説の王子さまの言葉です。自分探しの場所を求めてバンクーバーに滞在中、ユリエさんが作った物語、『ケンとソラ』を今回はご紹介します。

 

 いない…ソラがいない。身体が熱くなって、頭に血が上って、汗がじわりと噴き出した。「どうしよう…」ケンはその場で座り込んだ。

 ケンは2週間前にカナダに引っ越して来た。ケンのお父さんはフランス人で日本にいた頃はフランス大使館で働いており、お母さんは日本人で大手IT企業に勤めていた。二人ともいつも忙しかったので、よく田舎のおばあちゃんが遊びに来てくれて、ケンの面倒を見てくれた。おばあちゃんのことが大好きだった。いつもニコニコしていて、手があったかかった。セキセイインコのソラもケンが寂しくないようにと、おばあちゃんが買ってくれた。白い体にお腹が水色。空みたいに綺麗だったから、ソラという名前をつけた。おばあちゃんと一緒に言葉を覚えさせようと頑張ったけど、何を言っても首をかしげるだけで、ソラは全然覚えようとしなかった。

 昨年おばあちゃんが亡くなってから、お父さんとお母さんは「家族の時間をもっと大切にしたい」とカナダに引っ越すことに決めた。ちなみに、今ケンが住んでいるバンクーバーはお父さんとお母さんが出会った街でもある。

 バンクーバーの家はビーチの近くだ。ケンはすぐにこの場所が好きになった。緑がいっぱいで、海もすぐそこで、そこにいる人達はみんな幸せそうで、いつもキラキラしている。学校は近くの小学校に通っている。日本にいた頃はクラスのみんなは髪の色が黒くて、目の色も同じだった。でも、ケンは髪が茶色で目が青かったので、よくからかわれていた。ここのクラスメイトは髪の色、肌の色が様々だ。なんだか安心した。みんな違っていていいんだって。でも、みんな英語を話していて、言葉が全くわからない。恥ずかしくて、怖くて自分から声もかけられない。そんな自分が嫌だった。学校が終わると一目散に家に帰って、ソラと遊んだ。これが一日で一番幸せで、ほっとする時間だった。

 「あんなに小さいんだから、まだ遠くまでいっていないはず…」咄嗟に家を飛び出して、必死に探した。家の周りから、草むら、木の影、車の下、隅々まで探したけど、見つからない。近所の人にも一軒ずつ聞いて回った。最初は緊張してお母さんの後ろに隠れていたけど、そのうち一人で近所をまわれるようになった。それでも、ソラは見つからない。でも、近所の人と顔見知りになった。隣の通りのおばさんは手作りのクッキーをくれた。さっくさくですごく美味しかった。チラシも作った。電柱に貼ったり、近くのカフェやコミュニティセンターに置いてもらうことにした。それでも、ソラは見つからない。でも、いろいろな人と出会って、楽しかった。みんな優しい。

 ある日、近所に住んでいるクラスメートが学校で「ケン、鳥探してるんでしょ?見つかった?」と話しかけてくれた。すると、何人か集まって、「じゃあ学校終わったらみんなで探しに行こうよ!」と言い出した。学校が終わるとケンを含めて6人でソラを探しに行った。それでも、ソラは見つからない。でも、一緒にみんなが来てくれたのが素直に嬉しかった。言葉なんて関係ないと思った。

 ……ソラはどこにいったんだろう。

 あれから一年が経つ。昨年と景色の見え方が全然違う。あの頃よりもバンクーバーはもっともっとキラキラして見える。「いってきまーす!」と家を飛び出す。うしろから「いってらっしゃい!夕飯までに帰ってくるのよー!」とお母さんの声が聞こえる。通りを歩いていると、近所のおじさんに「ケン、今日はいい天気だね」と声をかけられる。その家のおばさんがいつものように焼きたてのクッキーをくれた。クッキーの入った箱を脇にかかえながら、みんなと遊ぶ約束をしている公園に向かう。息を切らしながら公園の入り口を通る。ふとすぐ近くの木に目をやると、白い体にお腹が水色の小鳥が止まっていた。ソラだとすぐにわかった。「ソラ!!!」と呼んだ瞬間、すぐに空にパッと消えてしまった。あまりに一瞬だったから、気のせいだったのかなとぼんやり空を見つめる。すると、みんなの声が聞こえた。「ケン早くー!」「ごめんごめん、お待たせー!!」ケンは駆け足でみんなの輪の中に入る。

 今日の空は一段と青く澄んでいるように感じた。

 

 日本社会の中で凝り固まっていた自分の真のアイデンティティを探し求め、さらにそれをどう表現して自分らしく生きるかで悩んでいたユリエさんでした。この物語でケンが飼っていた小鳥は日本での“過去の自分”だったと思うそうです。ノベル・セラピーワークショップで物語を作ったことで、過去の自分を飛び立たせ、自分らしさを取り戻して未来に向かう意志を明確にできたユリエさんは、一年間のワーキング・ホリデーを終えて日本に帰国し、転職活動を始めたところです。

 


Ojha Emu Goto ノベルセラピスト

 日本で雑誌,広告制作者として活躍していたが、98 年にカナダに移民。光の色波動を用いるZenith Omega Healing( ゼニス・オメガ・ヒーリング)のマスターティーチャーヒーラー。月刊ウェブ・マガジン “Cradle Our Sprit! ” www.ojha-angel-vancouver.net / 編集長。しらゆきのゆめ出版代表。

 著書に「アカシック・レコードの扉を開ける〜光の鍵」明窓出版(2010 年)。 ノベル・セラピーのテキストを兼ねた小説集「しらゆきのゆめ」を昨年末出版した。同時に 『しらゆきのゆめ』出版を設立し、バンクーバーの日系社会のみなさまの自費出版をお手伝いさせていただいている。

 昨年3月に日本縦断ノベル・セラピーワークショップツアーを行い、現在ノベル・セラピーで誕生した物語を Pod Cast での世界に向けたインターネット配信を準備中。ノベル・セラピーワークショップは随時開催している。ノベル・セラピー協会HPは、https://ojhaemugoto.wixsite.com/novel 自費出版及ノベル・セラピーのお問い合わせはThis email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it. まで。 

 

 

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