2017年9月7日 第36号
認知症になると、口の中に何か問題があっても、うまく伝えられない場合が少なくありません。そのために、うまく物が食べられなくなり、栄養が低下し、寝たきりにつながってしまうこともあると言われています。虫歯、歯周病、口の粘膜の傷、口内炎といった炎症などが、認知症の高齢者の口の中で起こりやすくなります。
口の中の問題が起こりやすい一番の原因は、歯磨きが疎かになるためだといいます。 認知症になると、初期の段階で、習慣化された自分の身の回りのことができなくなります。服の着方が崩れる、髪をとかさなくなる、手や顔を洗わなくなる、お風呂に入りたがらなくなるなど、身なりを整えたり、体を清潔に保ったりすることが疎かになります。歯を磨かなくなるのも、歯を綺麗にすることに興味がなくなるからです。
歯を磨く時、何かをしながら、例えばテレビを見ながらでも、手際よく磨くことができますが、認知症の人には、直接見えない口の中を想像しながら磨くことが難しいのです。どこまで磨いたかわからなくなり、コマーシャルで見られる正しい歯の磨き方のように、 上下、左右にうまく磨けません。それでも、歯がうまく磨けているかどうかは、近くにいる人にはよくわかりません。
認知症が軽度から中等度に進行すると、細かい手の動作が難しくなったり、歯を磨くというような、生活上の日課そのものを忘れがちになったりします。歯を磨かない状態が続き、口の中の衛生状態が悪くなると、虫歯や歯周病で歯を失ってしまうことにもなりかねません。しかし、例えば、親が認知症だからといって、家族でも親の口腔衛生をチェックすることはなかなかできません。というより、本人に自立したい気持ちがある時期には、口の中など見せてはくれないでしょう。定期的に歯科受診していれば、かかりつけ医が口の中の変化に気付くはずです。歯磨きがうまくできていないことがわかれば、何らかの処置がされるでしょう。しかし、定期的に歯科受診をしていないと、見つかりにくいのが口の中のトラブルの特徴です。
認知症の進行が中等度以上になると、 口の中の問題があっても、それを伝えること自体が難しくなります。ですから、口腔衛生上、重大な問題が見過ごされる場合も多くなります。例えば、認知症の高齢者が急に口を開けなくなり、ご飯も食べず、歯も磨かせてくれない状態になった場合、何か口の中に問題があるはずです。自由に意思の伝達ができれば、痛みや不快感を訴えることができます。しかし、認知症が進むと、うまく話すことができなくなり、口内炎や歯周病など、潰瘍や炎症で痛みがあっても、それが伝わりません。痛みがあり食事の量が減ると、栄養摂取量が減り、栄養状態が悪くなります。栄養状態が悪くなることにより、一時的ではありますが、認知機能が低下することさえあります。呼びかけに応答できなくなったり、トイレにひとりで行けなくなったり、それまで普通にできていた、日常生活での行為に失敗するようになることもあります。
唾液分泌量の減少によるドライマウス、歯の磨耗、歯茎のやせ、顎や舌の機能の低下などのせいで、口腔衛生上の問題が起きやすくなっている高齢者の口の中は、何かの理由で歯磨きがうまくできなくなることで、さらに炎症や潰瘍ができやすくなります。自分ではケアができなくなっていることが多いため、周囲が気をつける必要があります。また、一時的にでも普通の食事ができない場合は、状態に合わせ、固形でもやわらかめの食べ物や、固形物を飲み込みやすくする介護食、液体の介護食などで栄養低下を防ぐことも重要になります。
ガーリック康子 プロフィール
本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定