2017年8月10日 第32号

 先週、カナダの2016年度の国勢調査の新しい結果が発表されました。今回のデータには、家族・世帯構成、結婚歴に関する内容が含まれています。5年前の調査と比較して、これらの分野で新しい傾向がみられます。

 まず、20歳から34歳の青年層のうち、34・7%が親と同居していることがわかりました。特に男性にその傾向が強くなります。また、既婚者の世帯のうち、同性婚夫婦が増加の傾向にあり、全体のおよそ1%になっています。そして、特筆するべき結果は、一人暮らし世帯が増加したことです。全世帯の28・2%を占め、全国で最も多い世帯構成になりました。

 一人暮らし世帯の増加の原因として、幾つかの理由が挙げられています。よく言われる晩婚化も理由のひとつですが、それよりも、あえて結婚を選ばず、生涯独身で通す人や、離婚後に再婚をしない人が増えていることが大きいようです。このことから、一人暮らし世帯の内訳は、これまで通りの、未婚の青年層や配偶者に先立たれた高齢者、特に高齢女性の一人暮らしだけでなく、40代、50代、60代の一人暮らしが増えていることが背景にあるようです。

 そこで問題となってくるのが、同居家族のいない「おひとり様」の高齢化です。だんだん歳をとっていく中で、別居する親を介護することになったり、自らが介護される身になったりすることに不安を抱えている「おひとり様」も少なくないのではないでしょうか。現在、日本では、人口の4人に1人、カナダでも、およそ5人に1人が65歳以上の高齢者です。「人生90年」の時代がやってくるのも、そう遠い将来ではありません。

 しかし、一人暮らしの高齢者の数が増える一方、それを支える若い世代の人口は減るばかりです。それに伴い、介護分野の人材の確保も追いつかなくなります。例えば、先ほどの国勢調査では、カナダの総人口に占める高齢者の割合が、15歳以下の子供の人口を上回りました。団塊の世代が75歳になる2025年までには、現状に拍車がかかることが十分予想できます。それでは、一人暮らしの人が歳をとっていく中で、親や自分自身に介護が必要になるまでに、どのような準備をしておけばいいのでしょうか。

 まず考えられるのが、日頃からの健康維持です。自分の体をよく知ることで、体調の変化に気づけるようにしておきます。そして、何か変化に気づいたら、すぐにかかりつけ医(ファミリー・ドクター)に相談します。かかりつけ医がいれば、詳しく調べる必要がある場合も、すぐに専門医への紹介を受けることができます。さらに、認知症と診断がついた後、介護に必要なサービスを受ける窓口となるケース・マネージャー(日本ではケア・マネージャー)にも繋がっていきます。

 また、介護に関する医療サービスについてある程度知っておくことです。そうすれば、実際に困ったことがおきても、慌てずにすみます。日本の家族を遠距離介護する可能性がある場合は、あらかじめ日本の介護保険の仕組みや行政サービスについて知っておくことも、大変役に立つでしょう。

 次に、遺言状やリビングウィルを準備しておくことです。自分の望む最期を迎えたければ、むしろ遺言状よりも、終末期医療についての希望を明らかにしたリビングウィルが重要になります。事前医療指示書、医療代理人同意書、財産管理の代理人を決める委任状も作成しておくといいでしょう。遠距離介護の場合は、日本の成年後見制度について知っておくことも役に立ちます。

 そして、どこで誰に介護してもらいたいのか、どこで看取られたいのか、「終の住処」を考えておくことが、準備の究極でしょう。自宅、高齢者向け住宅、老人ホームなどの介護施設など、選択肢は増えています。もし、自宅で最期を迎えたいと考えているのであれば、ぜひ、在宅医療の知識も身につけておいてください。

 介護は、「家族の力」だけでできるものではありません。公的サービスを含め、専門職の手を借りるだけでなく、地域の人的資源を見つけ、情報を得て、「地域の力」を借りながら介護を続けていく。介護をする側と介護を受ける側が共倒れにならないためにも、とても大切なことです。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。