2019年1月1日 第1号

 身体が冷える。…とても不思議な事と思いませんか?

 何故って、同じ気温で、同じ湿度で、同じ地方に住んでいて、食べるものもそれ程大きく違っていないのに、どうして“私だけ寒く感じるの?”と思う方は少なくないと思います。身体の中で産生される熱はただ単に総量で考えられる様なものではないのです。東洋医学では、身体と熱との関係は身体に蓄えられた熱の総量として捉えるのではなく、複雑な相互関係の上で成り立っていると考えられています。具体的には、これらの熱は産生され、伝達され、蓄えられ、身体の隅々に過不足なく、滑らかに、穏やかに行き渡って身体の恒常性が保たれていると考えられています。身体の隅々まで行き渡らなければ何処かで、冷えると言った状態になってしまいます。ですので、複雑な相互関係のどこの時点で熱が上手く伝わらないのかを知る必要が出てきます。熱は産生され、蓄えられ、運ばれ、全身を巡ります。具体的に見てみましょう。まず、熱の産生は“脾”がその役目を果たします。東洋医学で“脾”と表現するのは消化機能にあずかる臓器全体を表現していますので、西洋医学で表現する脾臓の事では有りませんので、注意が必要です。すなわち、飲食が熱の源になります。食事をしたときに身体が温かく感じられることは、良く経験することです。でも、この熱は“腎”の働きによって、蓄えられます。腎はそれ自体生命の根源を意味していますので、他の臓器に生命エネルギーを伝達する役目も担っているのです。ここでも、一般的に言われている西洋医学で用いられている腎臓とは違った意味を持っています。…だんだんと、分かり難くなってきますが、もう少しだけ我慢して読んでみて下さい。基礎知識や定義などは 全く面白くもなく、興味をひかない事は十分承知していますが。もう少しだけ、我慢、ガマン!! 何しろすべての基本事項ですので、少しだけ辛抱して下さい!!

 食べ物によって作り出された熱は生命エネルギーの腎の力と協力して熱を維持することができます。でもこれらの熱を全身に運ぶ必要が有ります。この役目を“肝”が担っています。これも、西洋医学で表現される“肝臓”とは意味が異なります。同時に“心”も役目を担っています。これも、西洋医学でいう心臓とは意味が異なります。この熱を全身に供給する役目は“血”が担っています。ここでは、単に全身に熱を運ぶ役割とだけ理解しておいて下さい。これらの臓器が連携しながら、生命活動に必要な熱を産生、貯蔵、供給が為されていることが東洋医学的な視点に立って、概略ご理解戴けたかと思います。これらの中、どれかの臓器が不調になれば、エネルギーとしての熱は伝達されないか、あるいは、伝達される量は少なくなります。ここで、例を挙げて一緒に考えてみましょう。例えば、脾の調子が不調と仮定してみます。食べる意欲も減退し、その上、食べられる量も少ないとしましょう。身体が弱って行く様子が目に見えるようですし、うすら寒い感じは、全身に及びます。でも、もしも、食欲は障害されておらず(脾機能は正常に保たれている)、活発で、生命力あふれる状態でも、強いストレスにさらされる毎日を送っているとすれば、肝(東洋医学で言う)の障害を起こしやすいし、あわせて、自律神経系の失調を起こしやすい傾向や、女性であれば、生理の不調に影響して来るであろうことは、容易に想像がつきますね。このように、熱の産生、運搬、供給に関して大雑把に捉えて見ましたが、おおよその、概念が描かれたことと思います。

 次回、2回目の冷え性シリーズはこれらの基礎的な概念から、一歩前に進んで、どんなタイプの冷え性がどんな特徴的な症状を呈するのかを紹介したいと思います。

 


杉原 義信(すぎはら よしのぶ)

1948年横浜市生まれ。名古屋市立大学卒業後慶応大学病院、東海大学病院、東海大学大磯病院を経て、杉原産婦人科医院を開設。 妊娠・出産や婦人科疾患を主体に地域医療に従事。2009年1月、大自然に抱かれたカナダ・バンクーバーに遊学。

 

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