2018年11月1日 第44号
卵巣機能不全・卵巣機能障害・無排卵・黄体機能不全など分かりにくい病名に目を触れたことが一度や二度は有ろうかと思います。生理が来ない・不正出血が続く・生理様の出血が頻会に繰り返すなどの症状は、その原因や検査等によって様々な診断が為されるために分かりにくく、しかも似たような病名になってしまうのです。上に記した以外にも幾つかの診断名が有ります。女性として生まれ、やがて初経(初潮)を迎え、不規則だった生理も整調となって成人女性として性成熟期を迎え、やがて再び不規則となって閉経を迎える。この期間、多少の長短は有りますが一般的には約四十年間に及びます。この期間に28 日の周期で正確に繰り返す人は極めて少ないことでしょう。まずおいでにならないと言ってもよいでしょう。それほど不規則だったり、不正出血だったり、生理にならなかったりすることは稀な事ではなくて“よくあること”なのです。仕事をお持ちで毎日毎日、過酷な労働を成し遂げ、また一方では、小さな子供さんをお持ちのお母さんは子育てに多くの時間をさいて、子供さんの勉学のみならず様々な行事や対応に追われ、その上炊事や洗濯など家事一般もこなして超多忙な毎日を頑張ってお過ごしの方も多い事と思います。
現在はストレス社会とも表現されるほどストレスに満ち溢れた社会での生活を余儀なくされています。このストレスは結構厄介なもので、自律神経のはたらきもホルモンのバランスも崩してしまう事が有るのです。たとえば良くある事ですが、周りの人達にとっては大した事のないことでも本人・当人にとっては重大で、とても大きなショックを受けたと言う事をよく耳にします。途端に食欲は半減し、夜も眠れず、考えもまとまらず、その上生理が来ない或いは反対に出血が止まらないなど、気持やこころ(心)などの精神的な因子やストレスが原因でこれほど多彩な身体的症状を呈したりして影響を受けやすいのです。全ての症状が揃う事は少ないながら、いくつか並行して同時に経験なさった方も少なくないと思います。これらの症状の原因は、もちろん精神的因子だけに留まることでは有りませんが結果としてホルモンの異常を来たしたのです。しかし一方では、広く一般的に“内分泌”と呼ばれるホルモンを産生するまでの臓器の異常が関与している場合も少なくありません。下垂体腫瘍や卵巣腫瘍などが代表例です。卵巣という臓器はお腹の下の方に有るのに、視床下部や下垂体という頭の中に有る臓器と密接に関係しているというと、少し変な感じをお持ちになるかもしれませんが、頭の中に司令塔とでも言われるべき中枢がホルモンという物質を作るうえで重要かつ密接に関連していて、切っても切れない重要な働きを担っているのです。
一過性に無排卵や不規則な月経周期、不正出血が見られても速やかに正常化する場合は大事に至ることはないにしても、繰り返し症状が発現したり、あるいは反対に生理が発来しないようでは、意を決して医療機関の受診をお勧め致します。単に“ストレスだろう”ではない場合も考慮しなくてはならないからです。恐れる事は有りません。医療機関は貴女の絶対的な味方なのです。現在の貴女の状態を診断・治療して健康を取り戻して戴くために最善を尽くす事でしょう。患者さんが健康を取り戻す事によってのみ、医療従事者は人生最大の喜びと生きがいを見出しているのですから。でも、症状がなくても腫瘍が発見されることも有りますので、定期健診はお勧めしたいですね!
杉原 義信(すぎはら よしのぶ)
1948年横浜市生まれ。名古屋市立大学卒業後慶応大学病院、東海大学病院、東海大学大磯病院を経て、杉原産婦人科医院を開設。 妊娠・出産や婦人科疾患を主体に地域医療に従事。2009年1月、大自然に抱かれたカナダ・バンクーバーに遊学。